『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』45点(100点満点中)
2010年7月3日公開 2010年/日本/カラー/141分/配給:東宝
監督:本広克行 製作:フジテレビジョン/アイ・エヌ・ピー 制作プロダクション:ROBOT 出演:織田裕二 柳葉敏郎 深津絵里 ユースケ・サンタマリア 伊藤淳史 内田有紀

≪苦労がうかがえるが、これで満足しろというのは厳しい≫

『踊る大捜査線 THE MOVIE』のような特別なブロックバスターは、いわば邦画ビジネスの頂点に位置する存在としてあらゆる人々の目を「映画」に向ける重要な役割を担っている。これをきっかけに人々は久々に映画館へと足を運び、そこでさまざまな宣材、予告編、あるいは映画館独特のムードに触れる。そして「次はあれを見に行ってみるか」と感じてくれるのである。そうやってビジネスの裾野が広がる。この流れはどこの国でも同じだ。

だからこの映画を作るスタッフは、きっと大きなプレッシャーを感じていたはずである。ましてこのシリーズは前2作とも100億円という、現在の景況では達成が極めて困難な興行収入を易々と記録している。今回も、そのラインを下回ることはまず許されない雰囲気だ。

チャンピオンだからこその苦悩。その上、邦画界の未来まで背負わされるのでは、たまったものではないかもしれない。

強行犯係係長に昇進した青島刑事(織田裕二)は、同時に引越し本部長として湾岸署のハイテク新庁舎への引越しを指示していた。ところがそのどさくさにまぎれ、青島らの拳銃3丁が紛失する騒ぎが起きる。

さて、「特大ヒット請負人」としての強大なプレッシャーを受けた本作製作スタッフだが、結局のところ、なりふりかまわぬ手法で観客をかき集める行動に出た。

それは何かというと、青島刑事が過去に逮捕した大物ゲストタレントたちを含む、オールスター総登場のシナリオを作ること。それがたとえ友情出演程度の出番だとしても、皆さんそれぞれご自身の番組で宣伝していただけるという寸法である。少なくともこれで、大コケのリスクだけは減らすことができる。

出演者間の確執など様々な障害を経てようやく作られた「踊る3」が、よもやこんな手を使うほどになってしまうとは。仮にも日本実写映画興行収入歴代1位の記録を持つシリーズである。あの「踊る」が、堂々たる大作映画としての誇りをかなぐり捨てる、こんな小技に頼るとは世も末。スクリーンの前で、私はただただ唖然とするばかりであった。

この散々な出来栄えを見て、織田裕二は何を思うだろう。常勝を宿命とするこの日本を代表する映画俳優にとって、決して妥協できぬはずの自分の代表シリーズ。並の大作にはできないくらい、じっくりと企画やストーリーを練る時間もあったはずだ。それがなぜこんなことに。

「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」は、エキストラ数や空撮や特機による移動撮影など、大げさな映像で必死にゲタをはかせているが、映画としての骨格はたよりない。別に立派な芸術映画を作る必要などないが、これはポップコーンムービーなのだからそれなりのワクワク感やスリル、スケール感が感じられないのは致命的だ。大勢を集めるこういう映画だからこそ、「映画」のもつ原始的な面白さを味あわせてほしいものだ。

キャラクターに頼るのではなく、その魅力的なキャラクターにどういうシチュエーションを与えたら面白い話になるのか。そこに知恵を絞っていただきたい。引越しが最大のスペクタクルでは、「踊る」の名が泣く。そんなものは、本編前に流すオマケのお笑い短編程度のアイデアに過ぎない。



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