『パリ20区、僕たちのクラス』15点(100点満点中)
パリ20区、僕たちのクラス ENTRE LES MURS / THE CLASS 2010年6月12日より、岩波ホールほか全国順次公開 2008年/フランス/カラー/128分/配給:東京テアトル
監督:ローラン・カンテ 原作:フランソワ・ベゴドー『教室へ』(早川書房刊) 脚本:ローラン・カンテ、フランソワ・ベゴドー、ロバン・カンピヨ 出演:フランソワ・ベゴドー

≪欧州を感動させた映画ではあるが……≫

くせもの揃いのカンヌ国際映画祭。そこで2008年の最高賞(パルムドール)をとったとなれば、映画好きならば誰だって興味がわく。しかも審査委員長の映画監督ショーン・ペンは満場一致と絶賛するし、考えてみれば純粋なるフランス映画がパルムドールをとるのは久しぶりな気もする。これは見逃せないと試写に出向いたが、これが残念な肩透かしであった。

様々な国・地域からの移民が共存するパリ20区。その混沌を象徴するかのように、多種多様な人種が入り乱れたある中学校のクラス。国語教師フランソワ(フランソワ・ベゴドー)は、スラングを連発するやっかいな子供たちを相手に、あの手この手で正しいフランス語を教えようとするが……。

ドキュメンタリーのようなタッチで、ある教師と24人の生徒の新学期から1年間を描いたドラマ。翌年のアカデミー賞では外国語映画賞にもノミネートされた、総じて高評価の作品である。優雅でプライドの高いフランス人のありがちなイメージとは正反対の、移民地区の学校の現実。その混沌とした生々しい日常を、素人を中心としたキャストで臨場感たっぷりに見せてくれる。

ところで学校と先生というものは、国が違っても普遍的ななにか、共通性のようなものがあるのではと私は思っていた。だがこれを見ると、どうやらそれは誤りだ。カンヌの審査員はじめ、多くの欧米のプロたちおよび観客を感動させた本作を見てもその思いは共有できず、むしろ価値観の違い、その溝の深さばかりを感じるはめになった。

それはそれで興味深いが、共感はしがたい。というより、正直なところこの教師のダメっぷりにイラついて仕方がない。

この教師は、学級内に当然存在すべき上下関係、すなわち理不尽な権力(教師)の存在=現実社会の生き方を一切教えない。教えている様子がない。それでいて生徒に擦り寄ろうとするのは、日本人の目からすれば単なるトモダチごっこに過ぎず、教師としては失格、平等精神を尊重しているように見えながらも、きわめて無責任である。こんな教師に教わったら、弱肉強食のおそろしい都会で生きていく能力を身に着けることは難しかろう。

あげくの果てには自分の無能力と失策を棚に上げて教育放棄。劇中の登場人物の問題点、改善すべき点は誰の目にもとっくに明らかなのに、それを誰も指摘しない。そのまま、ダラダラと長時間かけて学校の日常を描き続け、教師は同じ失敗を繰り返し続ける。なにしろ精神衛生上よろしくない。イラ菅ならばとっくに15回ほどは怒鳴りつけている状況である。

むろん、狙いやテーマはわからぬでもない。「言葉を教える教師」という設定に重ねてたとえられる、コミュニケーション不足やすれ違いのやるせなさ。理想とは違う学校の現実。誇り高いフランス人が他民族と共生する(せざるを得ない)現代社会における複雑な心境などを、本作は10代の視線を交えて瑞々しく切り取っている。移民との交流、共生の困難さを、ミニ社会としての学校を舞台に描いているのも理解はできる。

ただ、どうしてもそれを素直によしと見られないのも事実。優れてはいるが魅力を感じられない、典型例のような一本であった。



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