『ローラーガールズ・ダイアリー』65点(100点満点中)
WHIP IT 2010年5月22日(土) TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー! 2009年/アメリカ/カラー/112分/PG12 配給:ギャガ
監督:ドリュー・バリモア  原作・脚本:ショーナ・クロス 撮影:ロバート・イェーマン 出演:エレン・ペイジ マーシャ・ゲイ・ハーデン クリステン・ウィグ ドリュー・バリモア

≪疲れた女性たちの背中を押してくれる映画≫

この映画をエレン・ペイジの主演最新作とみるか、ドリュー・バリモアの初監督作品とみるか、まず分かれるところだろう。87年生まれのエレン・ペイジは若手女優の中では群を抜く異質さを感じさせる逸材で、その出演作(「JUNO/ジュノ」(07)、「ハード キャンディ」(05))を見た者なら、二度と忘れられないインパクトを受けたはずである。

かくいう私も、本作を彼女の主演最新作として期待してみた口だ。だがそれは間違いで、『ローラーガールズ・ダイアリー』はどこからみてもドリュー・バリモア色に染まった、彼女の個性がたっぷりと染み込んだ作品であった。

テキサスの田舎町に住む女子高生ブリス(エレン・ペイジ)は、娘を美人コンテストで勝たせる事が唯一の成り上がる道と信じる母親(マーシャ・ゲイ・ハーデン)にずっと振り回されてきた。あるとき彼女は、街で見たローラーゲームで激しくぶつかりあう女たちの戦いに衝撃を受ける。自分に無い選手たちの奔放さにすっかり魅了されたブリスは、家族に内緒で入団テストを受けに行ってしまう。

相変わらず、どんくさい文学少女のような役柄がよく似合うエレン・ペイジは、しかし本作では完全に監督の駒として動くのみだ。一方、彼女ほどの才能をそんな風に使うドリュー・バリモアの豪腕ぶりに、私は大いに驚かされた。これで初監督というのだから凄い。

ハイテンションな、ティーンのナチュラルハイなスポーツムービーだが、随所にこの監督らしさが見受けられる。

何しろヒロインの設定が、監督の共感を誘ったことは間違いない。まずドリュー・バリモアといえば、芸能一家に生まれたことで有名。彼女自身も生後11ヶ月から芸能の仕事をしている筋金入りである。その後4歳で映画に出て、成功の反動で猛烈にグレて、ヌードや酒、麻薬に自殺未遂と大変な人生を送ってきた。紛れも無い成功者なのに幸薄いあばずれたイメージは、彼女独特の個性である。

そう考えれば、自分の夢でもある美人コンテストに娘を幼いころから連れまわす本作の母親と娘の存在を、自らの境遇に重ねぬはずはない。この映画では、この母と父親、そして娘の関係性に多くの時間を割いているが、監督の生い立ちを考えるとこれはなかなか複雑である。

本作の父母、そして娘との関係は、きっとドリュー・バリモアが理想とする家族のそれではないだろうか。

主人公ブリスが「生まれたときから(母親に)生き方を押し付けられてきた」と、年上の選手メイビンに語るシーンはとても切ない。そしてこのときメイビンが主人公に返す言葉には、まるでドリュー自身の経験が込められているようでじつに重い。そして泣かせる。このメイビンというキャラクターは、ブリスと合わせてどちらもドリュー本人の分身であろう。成長前、成長後というわけだ。

こうして暴走し始めた娘に対し、ローラーゲームの件を知った父母が言葉をかけるシーンは、ドリューさんもこういう家族が欲しかったのかなあと思わず感じてしまい、感動もひとしおである。

そんなわけで本作は、ドリュー・バリモアのファンの方が見たら面白さと感動倍増。失敗や挫折を重ねてきた女たちが、それでも堂々と地に足をつけて前に進む。その清清しく、肯定感に満ちたメッセージは、男の私が見ても手放しで支持したくなる前向きなやさしさに満ちている。

苦労人ドリュー・バリモアだからこそ描けた、そして心に届くテーマ。人生に疲れた女性たちを励ましてくれる、貴重な一本である。



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