『ホームレス・ワールドカップ』65点(100点満点中)
2010年5月8日(土)より、ライズX他にて全国順次ロードショー 2008年/アメリカ/ヴィスタ/カラー/99分/ステレオ 配給:イーネット・フロンティア
監督:スーザン・コッホ/ジェフ・ウェルナー 脚本:スーザン・コッホ 撮影:ニール・バレット 音楽:チャーリー・バーネット ナビゲーターナレーション:コリン・ファレル

ホームレスだらけのサッカー大会

私が生まれ育った東京の下町には山谷という、それこそホームレス世界大会をやれば準決勝くらいまでいきそうな気合の入った町がある。世界第2位とか第3位とか言われるこの経済大国、それも大東京の端っこに、明らかに物価と価値観が一桁ずれた町が存在するわけだ。ある意味その特殊性は、世界的に見ても珍しい部類に入るのではないか。

とはいえ『ホームレス・ワールドカップ』は、別にそんな奇特な大会の話ではない。このドキュメンタリー映画は、世界中からホームレスだけを集めてサッカーワールドカップをやっちまおうという、歴史ある大会の模様を描いている。

2001年から続くこのサッカー大会は、本家WC同様各国代表が集い、戦い抜くシステム。ホームレスに悩む町のひとつ、ダブリン出身の有名俳優コリン・ファレルが、そんなことを説明して映画が始まる。

サッカーといってもミニサッカーで、選手はみなホームレスだから若者とは限らない。もちろん、ここで活躍してプロになって人生を立て直したいと語る若者もいるが、別のチームでは普通に62歳なんておじさんがよぼよぼとボールを追っている。どうみても勝てるとは思えない。

普段の練習も多種多様。得体の知れないものを丸めたものをボールとして蹴飛ばしているチームもあれば、そもそもグラウンドがないなどといって開墾作業からやってる国もある。世界は広い。

大会の模様だけでなく、ケニア、スペイン、イギリスといった国から特定の選手にスポットをあて、その暮らしぶりやその後の様子を追う構成になっている。

これがまた興味津々で、世界には色々なホームレス事情があるもんだと感心しきり。貴重なホームレスの生活記録ムービーの側面も持っているわけだ。たとえばこの中で、アフリカのスラムのトイレ掃除が生業という男が出てくるが、世界トイレ掃除ランキングなるものがあれば、間違いなくワーストを争うであろう臭そうな現場である。

しかしこのトイレ掃除青年が、予算不足のため粗末な大会宿舎に案内されたとき、そこをみて語るセリフなどは大いに泣かせる。笑わせて、切ない思いをさせて、そして感動をくれる。いいドキュメンタリーだ。

この大会の目的とは何なのか。やがて観客にもわかってくる。勝利なのか、それとも別のものか。いや、そもそも出場選手たちにとって本当の意味での勝利とは何なのか。

それを考え始めると、この大会が国際大会で、各国代表として彼らが出場することの重要性が理解できるようになる。最初はただのキワモノスポーツイベントと思っていたがとんでもない。これは奥深い、非常にうまくできた、あるいは究極のセーフティネットでもある。この発想はわが国の労働政策にも生かせないものか。その詳細はぜひ劇場で。

それにしても、ミニサッカーはフィールドが小さすぎて撮影がしにくそう。試合シーンはメインの見所ではないとはいえ、もうちょっと工夫してほしかったところ。

さて、出場したホームレスたちはその後どうなるのか。ラストで明らかになる彼らの「未来」をみて皆さんはどう感じるか。

いつ山谷の泪橋(今はただの交差点だが)を渡るかわからない私にとって、こういう題材は他人事とは思えず、しみじみと見させていただいた。興味のある方は、見て損なしと思う。

だから山谷はやめられねえ―「僕」が日雇い労働者だった180日 (幻冬舎アウトロー文庫)
体験記。超おすすめ。おもしろすぎる。
今日、ホームレスになった―15人のサラリーマン転落人生
私も話をきいたことありますが、しゃれになりません。明日はわが身。


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