『運命のボタン』80点(100点満点中)
THE BOX 2010年5月8日、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー! 2009年/アメリカ/英語/カラー/スコープサイズ/1時間55分/配給:ショウゲート
監督・脚本:リチャード・ケリー 原作:リチャード・マシスン 出演:キャメロン・ディアス ジェームズ・マースデン フランク・ランジェラ ジェームズ・レブホーン
原作と違う結末が秀逸
ギリシャ経済のゴタゴタに伴う暴落で、GW明けに即死状態となった投資家も少なくあるまい。金というものは……というより、そこにかける人々の情熱とは、なんとパワフルで恐ろしいものか。すっかりポジションを失い、抜け殻のようになったFX初心者などに、私はこの『運命のボタン』をすすめたい。
76年の冬、ヴァージニア州の郊外で暮らす一家の妻(キャメロン・ディアス)は奇妙な訪問者に応対する。初対面の彼女に対し、彼は大きなボタンがついた箱を渡す。それを押せば、一家は100万ドルを受け取れる。ただし代わりに見知らぬ誰かが死ぬ。期限は24時間。その間に押さない場合は装置を回収する。そう言って去った男が残したボタン装置は、仲むつまじい夫婦と息子たち一家の運命をどう変えるのだろうか。
押せば1億円。70年代の設定だから今ではその数倍の価値といったところか。ただし憎らしいことに、それは誰かを殺すことになる。さてアナタならどうするか……。
ミステリードラマ、新トワイライトゾーンで映像化されたこともあるリチャード・マシスンの短編小説を大きくアレンジしたサスペンス。結末は原作、ドラマ版とも違う。端的に言って、この映画版が一番よく出来ている。
コメディエンヌの印象強い演技派キャメロン・ディアスは南部なまりを会得、完全シリアス演技でこのガチンコミステリに挑んだが、さすがに上手い。脚に障害を持ち、引きずっているが、これも重要な伏線だ。前半からこうした布石がいくつもうってあり、仰天のラストでは「ああそうか、なるほど」となる仕組み。
この映画が抜群に面白いことには、おそらく誰も異論はなかろうが、私が高く評価するのはそのメッセージの普遍性の高さ。このエンディングを(非常にミニマムな)原作と比較すると、この短編をふくらませて映画化するならこうすべきだよねと合点がいく。
いろいろな解釈が乱れ飛ぶと思うが、私がうまいなと感じたのはこの作品が人間の身勝手な本質をこの上なくシニカルに描いている点。
とくに終盤、大きく考えを改めたかにみえるヒロインだが、よくよく考えてみるとまったく序盤と同じメンタリティで、じつは何の成長もしていない。彼女の選択の源泉となっているのは、最初も最後も結局のところエゴによるものだ。人間の本質とはこんなモンなんだよとニヒルに笑う作り手の顔がスクリーンの裏に見えるようだ。
……といっても未見ならぴんとこないと思うので、見た後またこの段落を読んでいただければと思う。
途中、荒唐無稽なオカルト方面に脱線するなど、一部の人々に拒否反応を起こさせる展開もあるが、それはあくまで枝葉の話。この物語の本質を見失わないよう、気にせず没頭することをすすめたい。
大人のカップルでも、親子でも、友人同士でも大丈夫。盛り上がること間違いなしな議論、会話のきっかけをくれる優れた映画である。1億円を持ってる人も、暴落で失った人も、GW明けの落ち着いた映画館でぜひ鑑賞してほしい。きっと何がしかの知的な刺激、興奮を与えてくれるはずだ。