『矢島美容室 THE MOVIE 〜夢をつかまネバダ〜』70点(100点満点中)
2010年4月29日(木・祝)全国ロードショー 2010年/日本/カラー/98分/配給:松竹
監督:中島信也 脚本:遠藤察男 音楽:武部聡志 企画・矢島美容室プロデュース:石橋貴明(とんねるず)、木梨憲武(とんねるず)、DJ OZMA 出演:ストロベリー マーガレット ナオミ 黒木メイサ 山本裕典 アヤカ・ウィルソン

国内専用ミュージカル

『矢島美容室 THE MOVIE 〜夢をつかまネバダ〜』を見ると、身の程を知るという言葉がいかに大事かがよくわかる。誰がどう見てもキワモノなこの企画を、本作のスタッフたちは予算人員等限られたリソースを自らの得意分野に集中させる事で、それなりに見られる形にした。自分たちにできる事とできない事を冷静に判断できたからこその成功例である。いかにもテレビ的な発想だが、それが良い方向に働いたといえる。

アメリカ、ネバダ州で美容室を営み暮らす母マーガレット(本人、以下同)、長女ナオミ、次女ストロベリー。彼女たちの平凡な暮らしを、あるとき父親の家出という大事件が襲う。ストロベリーは学校でライバルのラズベリー(黒木メイサ)にソフトボール対決を挑まれ、ナオミはミスコンテスト本選に挑む最中の出来事であった。

木梨憲武や石橋貴明の女装顔のドアップを大スクリーンで見たときには、おそらく金を払ってなんでこんなモノを見なくてはならないのだろうと切ない気持ちになること請け合いだが、それを補って余りある楽しさが本作にはある。

演じる3人の世代、アラフォーからアラフィフあたりの琴線に触れる曲調で統一された矢島美容室のヒットナンバーは、映画ならではのハイテンションでゴージャスなパフォーマンスで大いに盛り上がる。つまりこれは、日本国内専用ミュージカル作品。ターゲットが絞られているから、合致した観客にとっては下手に『NINE』なんぞの海外の大作を見るより遥かに面白いだろう。映画館の席に座っているのがもどかしいほどだ。

特筆すべきは、おそらくDJ OZMA入魂の一作であろう「アイドルみたいに歌わせて」。特別出演の松田聖子をメインヴォーカルに据えたコラボ曲だがこれは良かった。

彼女の歌声は、たぶんホモサピエンスを心地よくさせる特別な周波数に世界でもっとも合致しているんじゃないかと常々思っていたが、これを聞いて日本のアイドル界は彼女を越える人材をいまだ発掘できていないことがはっきりとわかった。昭和期に活躍したプロレスラーがいまだに興行の中心となる求心力を持つように、アイドルというものも実力容姿以上に「実績からくる伝説性」が大事ということか。

アイドルプロデュースのシミュレーションゲーム「THE IDOLM@STER」が人気を博している今、この曲はおじさんと共に若い世代の支持も間違いなく集め、ヒットすることだろう。

エンドロール後のコントじみた挨拶ふくめ、とんねるずの悪乗りで実現したであろう事は想像に難くない映画だが、楽曲の良さを唯一無二の武器とし、チームワークで乗り切ったスタッフキャストの皆さんには敬意を表したい。

賞味期限の短い流行品ではあるが、日本人のためだけの楽しいミュージカルとして、気軽に見るにはオススメの一品である。



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