『スパイ・アニマル Gフォース』55点(100点満点中)
G-FORCE 2009年米国/89分/ディズニー 監督:ホイト・H・イェットマン・Jr 製作: ジェリー・ブラッカイマー 出演:ザック・ガリフィナーキス ウィル・アーネット 声の出演:ニコラス・ケイジ ジョン・ファヴロー ペネロペ・クルス

ディズニーが本気で送るネズミ映画

前代未聞の欠陥商品が多数登場するこのコメディー映画の後半を、決して笑ってみることはできないであろう。──世界でただ一人、トヨタ社長だけは。

遺伝子操作で生まれたスーパーモルモットを、ベン博士(ザック・ガリフィナーキス)が厳しい訓練で育て上げたFBIのエリート特殊スパイ部隊「G-FORCE」。人間では不可能な潜入捜査をその小さな体で成し遂げる彼らだったが、FBI上層部からは誤解され、部隊の解散を命じられる。捕獲寸前のところを逃げ出したモルモットたちは、なんとか手柄を上げて再起したいと考えるが……。

子供向けの3D実写(とCGアニメの融合)映画だが、こんなファミリームービーでもちゃんといまどきのアメリカ映画のポイントを押さえているあたりが面白い。

それは、モルモットのスパイたちが自らの出自、正体を知る場面。ここはこの映画でもっとも重要な、作品としての主張が明らかになるシーン。そして同時に、それが私がこのサイトでしょっちゅう言及している最近の米映画の流行テーマとまったく同じであることがわかる瞬間でもある。

子供たちに対してはもちろん、心もお財布も傷つき、一番安い娯楽である映画館にやってこざるを得ないお父さんたちをも暖かく励ますこのシーンを見れば、いまアメリカがハリウッドを使って何をしたいかが、誰でも理解できるだろう。

『スパイ・アニマル Gフォース』は、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーと最大手ディズニーが全力で世に送り出した3D作品であり、その意図するところを理解する事はアメリカ・ウォッチャーにとって非常に重要である。だいたい、ネズミを描かせたら世界一のディズニーがわざわざネズミを主人公にした映画を作るのだから、片手間お気楽作品のはずがない。そこにはどうしても伝えたい、大事な何かが秘められているのだ。

なお個人的に笑ったのが、黒幕が犯行の動機をGoogleをだしに説明する場面。現実社会と照らし合わせると、ここもまた意味深な内容である。

ただ残念なのは、日本で公開される吹き替え版の完成度が妙に低く、こうしたギャグシーンの面白さが伝わらない点。元の英語だと、きっとこのシーンは笑えるトコなんだろうなあという場面が多々あった。そのためか、重要なキャラクターであるハーレーに十分感情移入することができず、結果的に感動も薄れてしまった。



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