『映画ドラえもん のび太の人魚大海戦』35点(100点満点中)
2010年3月4日ロードショー 2010年/日本/カラー/99分/配給:東宝
監督:楠葉宏三 原作:藤子・F・不二雄 脚本: 真保裕一 声の出演:水田わさび 大原めぐみ かかずゆみ 木村昴 関智一 千秋

ドラえもんの魅力をまるでわかってない失敗作

春の風物詩、映画版ドラえもんの最新作だが、なにしろ今年は通算30本目ということで力の入れようが違う。原作はあれど映画としてはリメイクでないオリジナル、舞台は海底と、冒険のスケールも大きい。

架空水をつくりだすひみつ道具で町を泳ぎ楽しんでいたのび太(声:大原めぐみ)とドラえもん(声:水田わさび)は、そこで人魚族の王女ソフィア(声:田中理恵)と出会う。彼らは仲間とともに海の底にある彼女の国を訪れるが、その途中でしずかちゃん(声:かかずゆみ)が何者かに連れ去られてしまう。

古代から対立する海の二大民族の戦いに、おなじみのメンバーが巻き込まれるストーリー。真矢みき、ケンドーコバヤシ、さかなくんらがゲストで出演する。

はた目には磐石にみえる映画ドラえもんも、じつのところ前作では大きく動員数を落とした。おまけに今回は第30作という重要な節目。絶対に失敗はできない。製作陣は相当プレッシャーを感じていたはずだ。

とくに「映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜」(07年)をヒットさせながら、前作「新・のび太の宇宙開拓史」(09)でシリーズを大きく減速させてしまった脚本家の真保裕一にとっては後がない状況といえる。

そこで起死回生をはかり、オリジナルストーリーで挑んだわけだが、結局これが裏目となった。

そもそもドラえもんのような子供向き映画は、学校を卒業するかのように定期的に客層が入れ替わる。「のび太の恐竜」(80年)を見た少年少女は、今ではとっくに30歳を過ぎている。現在劇場にドラえもんを見に来ているのは、彼らの子供たち世代である。

こうなると、無理してオリジナルにこだわる理由もないわけで、延々と成功作のリメイクを繰り返していても別に問題はない。むしろ今回のように、下手にオリジナル方面に振って失敗するよりはマシだろう。リメイクといっても高品質なものならば十分見るに値するし、それがトリガーとなって旧作に注目も集まる。

だがそれをせず、あくまでオリジナルをやるのであれば、少なくともこのシリーズの魅力、成功作品の分析をもっとしっかり行ったほうがいい。その結果見つけた「面白さのコア」を踏襲さえすれば、表面上の物語がどうであろうと必ずいいものできる。

さて、本作を見た大人の観客は「どうもわくわくしない、いまいちつまらない」との感想を持つはずだ。それはなぜかといえば、ドラえもんの映画版の魅力を、この製作陣が十分に分析していないからにほかならない。

ドラえもんたちが巻き込まれる冒険は、決して日常と乖離していてはならず、かならずその延長線上になければならない。ドラえもんは子供たちの共感の対象であり、ヒーローではないのだ。なのに本作は、ヒーロー映画の雛形で作っている。大きな間違いだ。

超自然的未来道具で遊んでいたら大冒険に巻き込まれました。その先でも未来道具で問題を解決しました。

こんなストーリーのどこに子供たちが共感すればいいというのか。最初から最後まで、「日常」がまったくない。これでは「僕らとは違う世界の超人的子供たちが、超人的な活躍で目的を遂げただけだね」となるだけ。観客とスクリーンの間に深い断絶があり、その切れ目のこちら側に座って子供たちは映像を眺めているだけだ。こんなものはドラえもんの魅力とはいえない。

たとえば不朽の名作「のび太の恐竜」では、冒険のきっかけはのび太が自力で古代の卵を掘り出すこと。これなどは「日常」の延長線上に冒険の突端がある好例だ。子供たちはそれを見て、「ぼくらの日常にも冒険のきっかけが潜んでいるかもしれない」と胸を躍らせるのだ。そこには「ヒーローへの憧れ」でなくキャラクターへの「共感」がある。この違いを脚本家は見抜かねばならない。

次の作品は、くれぐれもその点をご理解の上、がんばっておつくりいただきたい。間違っても「次の冒険はどこを舞台にしましょうか」との発想から企画を始める事のないように。それは、失敗作への最短切符である。

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