『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』45点(100点満点中)
Caravaggio 2010年 2月 銀座テアトルシネマにて没後400年記念公開! 2007年/133分/イタリア・フランス・スペイン・ドイツ合作映画/35mm/スコープサイズ/カラー/ドルビーSR 配給:東京テアトル
監督:アンジェロ・ロンゴーニ 撮影監督:ヴィットリオ・ストラーロ「地獄の黙示録」 監修:クラウディオ・ストリナーティ マウリツィオ・マリーニ 出演:アレッシオ・ボーニ クレール・ケーム ジョルディ・モリャ
カラヴァッジョの全集などとぜひ一緒に
休み時間のたびに女の子と図書室へ行って美術全集を眺めるという、奇妙な高校時代をすごした私であるが、そのとき本の中でひとり異彩を放つ画家がいた。素人目にもわかる、その異様な迫力は長く心に焼き付いていたが、いうまでもなくそれこそが、現在ブームでもあるカラヴァッジョであった。
16世紀のイタリア。若くしてあふれる才能をもてあましていたカラヴァッジョ(アレッシオ・ボーニ)は、パトロンのコロンナ侯爵夫人(エレナ・ソフィア・リッチ)の支えで本場のローマへと向かう。のちに親友となるマリオ(パオロ・ブリグリア)や、愛を交し合う娼婦フィリデ(クレール・ケーム)と出会い、次々と作品を生み出していくが、気性の激しさからやがて致命的なトラブルを起こしてしまう。
映画が始まって驚くのは、この映画がまさにカラヴァッジョ的な、明暗の差が激しい絵作りをしていること。撮影地となったヨーロッパには古い建物が多数残っていることもあって、こういう絵画のような映画をさらりとつくってのけてしまう。うらやましい限りだ。
川辺に死体があると聞くと、恐れるどころか迷わず近寄っていって観察したり、売られた喧嘩は即買いしたりと、カラヴァッジョはおよそ画家のイメージからは程遠い武闘派である。大事な利き腕を大切にしようとか、そんな考えは微塵もなさそうだ。
彼の人生は、一般に知られているとおり波乱万丈で、本人もその経験を積極的に作品に生かしてきた。大切な人が斬首されたらそれを砂かぶりで見て宗教画の傑作を仕上げたりとか、おどろおどろしいエピソードは枚挙に暇がない。
また、この映画でも描かれるが、庶民をモデルに聖人を描く型破りなことをやった点でも、彼は美術史に名を残した。
有名な作品『聖母の死』では、それまでの美化された美人女性の最期ではなく、ただのオバサンの死体を彼は聖母として描いた。この絵を含め、クライアントの教会から「あほか、冗談じゃない。こんなの飾れるわけねーだろ」とつき返された作品も珍しくない。こうした不謹慎な手法から、モデルがひどい目にあう悲劇も起きている。
しかしながら、美術界のチョイワル男カラヴァッジョ最大の事件といえば、やはりアレということになる。もしかしたら知らない人もいるかもしれないので、これ以上は伏せておく。
ともあれ、そんな天才の生き様を、カラヴァッジョの絵のような(現代の感覚でそういえるかどうかはともかく)美しい映像で描く王道の伝記映画。
ぶっとんだ問題児ながら、まぎれもない革命者であり天才。決して共感はできないが、こういうはちゃめちゃな人物だからこそあれだけの作品を完成させ、残せたのかと思うと否定は出来ない。それはもう、しょうがない、というほかないのだ。
彼の人生に対しても、絵に対しても、凡人はただ眺めるのみ。この映画にしてもそれはしかり、か。