『バレンタインデー』55点(100点満点中)
VALENTINE'S DAY 2010年2月12日(金)日米同時公開決定!! 2010年/アメリカ/カラー/125分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ゲイリー・マーシャル 出演:ジュリア・ロバーツ アン・ハサウェイ ジェシカ・アルバ ジェニファー・ガーナー アシュトン・カッチャー シャーリー・マクレーン ジェイミー・フォックス ジェシカ・ビール
バレンタインデー、およびカップル専用
誰にでも、憎らしい奴というのはいるものである。その悪意は、ときに凶悪な事件となって社会を不安定化させ、人々を震撼させる。よって社会人ともなれば、いかに相手を憎んでいても、それを顔に出さぬよう我慢して生きるのが当然である。
だがどうしても許せない相手がいた場合、その相手が運良くシングルであったならば、恋愛群像劇『バレンタインデー』のチケットを買って渡すといい。
舞台はロサンゼルス、バレンタインデーの朝。最愛の恋人(ジェシカ・アルバ)にプロポーズを受けてもらった花屋のオーナー、リード(アシュトン・カッチャー)は大喜び。一年で一番忙しいこの日も、誰より幸せな気分で訪れるお客さんたちに笑顔を振りまいていた。そんな彼の周りには、たくさんの愛に悩む人々がいて……。
私はこのスイートなラブストーリーを当然ひとりで試写室で見たが、凶悪なまでの破壊力に何度席を立とうと思ったか知れない。これを一人で見ることは、拷問に等しい苦行である。
のっけから何組ものカップルが裸で抱き合いながら目覚める、おそらく本人たちだけは幸せであろう素敵なシーンを見せつけられる。数え切れないほどのキスやら愛のささやきを、サブリミナルのように脳内に埋め込まれ、強烈な幸せオーラに被爆する。自らの席の横に、大好きな女子の一人や二人いなくては、このパワーに対抗することなど不可能であろう。くれぐれも、カップル以外は本作を見てはいけない。
出演する男女総勢15名は、みな名だたる大スターばかり。顔の知れた俳優ばかりだから、監督はキャラクターを深く描こうとか、描きわけをしようという努力を正々堂々と放棄。出演者の名前と顔が一致しないような人がこれを見たら、かなりの確率で混乱しそうな複雑な人間関係となっている。
とはいえ、他人の恋物語なんぞに興味がない人でも、これだけの数があれば飽きずにいられよう。だいたいカップルで映画館に行く人は、上映時間の半分以上はお隣の恋人の横顔だの太ももだのを見ているのだから、こういう細切れのドラマ集のような構成は正義である。
内容は、米国版バレンタイン狂想曲とでもいうべきもので、日本人がこれを見ると、「ああ日米ではずいぶん違うね」「でもここは同じだね」といった文化比較ができる。
ご存知のとおり、日本のバレンタインデーというのは、女性にとっては1ヶ月短期物のノーリスクハイリターンな優良債に投資するようなものである。イケメンは一見たくさんチョコをもらえてうれしいが、1ヵ月後には自己破産の憂き目に逢うのである。
かといって非モテな男子が街に出れば、あふれる幸せオーラの中でみじめな思いを味わうことになるのは避けられない。つまり、どちらに転んでも男にとっては厳しい。私のような危機管理のプロフェッショナルならば、家に立てこもってネット回線も電話もテレビもシャットアウトする万全の体制で難を逃れる事も可能だが、それでもこのような試写を不意に見せられ、ダメージを受けることがある。恐ろしいイベントというほかない。
映画の終盤には、それまでよそ見していた観客の心をも揺り動かす感動の連続見せ場が用意される。とくに大御所ジュリア・ロバーツは、さすがに一番おいしいところを持っていく。彼女と、新鋭アシュトン・カッチャーの物語が交互に編集されるあたりは、相乗効果の妙を大いに味わえる。
よく考えてみると、これを2月14日以外に上映する意味があるとはさっぱり思えないのだが、なんだかんだいっても、それなりの満足度を与えてくれるのだからあなどれない。