『50歳の恋愛白書』40点(100点満点中)
The Private Lives of Pippa Lee 2010年2月よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー 2009年/アメリカ/カラー/98分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
監督;レベッカ・ミラー 出演:ロビン・ライト・ペン アラン・アーキン マリア・ベロ モニカ・ベルッチ ブレイク・ライブリー ジュリアン・ムーア キアヌ・リーブス ウィノナ・ライダー

女性にとっては、少々キツい映画

『50歳の恋愛白書』とは思い切った邦題をつけたものだが、つけた側も賛否両論がおきるだろうことは承知の上での決断らしい。タイトルから受ける印象と映画の中身はだいぶ異なるわけだが、その気持ちはわからぬでもない。この映画は、きわめて対象がニッチで宣伝側としては悩ましいであろう作品だからだ。

50歳の専業主婦ピッパ(ロビン・ライト・ペン)は、歳の離れた夫(アラン・アーキン)と長年うまく暮らしてきたが、30年近い歳月を経て強い孤独感をあじわうようになった。最近、周りが老人ばかりのコミュニティに引っ越してきた事も大きかった。やがてそんな彼女の前に、この町には似合わぬハンサムな若者(キアヌ・リーヴス)が現れる。

厳密には恋愛ものでもラブコメでもなく、中年女性の生き様をリアルに描いた女性映画である。むろん対象はヒロインと同世代の女性。とくにこれまでの人生、色々とあがいてきた知的な女性限定といった趣だ。天然気味な人や、苦労知らずな人には向いていない。男性は、まじめに女性観察を楽しむつもりならば案外いける。

途中ではキアヌ・リーヴス主演の熟女AVまがいが楽しめるが、もちろんそれは本作のメインではない。この映画で描かれるのは、きわめて古い価値観と、それから逃れられない気の毒な女性たちについて、だ。

具体的には、女性は常に受身であり、他者に引っ張られることでしか生き方を変えられないという残酷な事実が描かれている。自分で色々と決断しているように見えるヒロインも、じつのところ常に受身の人生を歩んでおり、そこから抜け出せない。なんと女性とは不自由な職業であろう。

ヒロインが、ある長年の「肩の荷」から開放されるのも結局自分の努力とは無関係な「受身」的理由から。若いころ、ダークサイドに堕ちるきっかけも、あるいは浮上するきっかけも全部「受身」。他者のおかげだ。

生々しく描かれるセックスシーンは、何も我々熟女好きの目を楽しませるためにあるわけではなく、本作のテーマを象徴的に表すため、体位も感じ方もあのように演出されているのである。

そう考えると、幸福感を感じさせるラストにも、どこか作り手の悪意のようなものを感じ取れるだろう。それとも、女性監督レベッカ・ミラー自身も、知らぬ間に古き価値観から抜け出せていないという、ただそれだけの事なのか。



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