『パーフェクト・ゲッタウェイ』75点(100点満点中)
A PERFECT GETAWAY 2010年1月23日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/97分/DOLBY DIGITAL/シネマスコープ/提供・配給・宣伝:プレシディオ
監督・脚本:デヴィッド・トゥーヒー 出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ ティモシー・オリファント キエレ・サンチェス スティーヴ・ザーン

2度目も楽しめる、よくできたミステリ

先日、ある人と「ポリティカル・サスペンス」の話をしていたら、なぜか会話が食い違う。どうもおかしいなと思い確認してみたら、その人は「トロピカル・サスペンス」だと思っていたらしい。

そんなジャンルねーよと爆笑した我々だが、よくよく考えてみたら『パーフェクト・ゲッタウェイ』はまさに「トロピカルサスペンス」というほかない代物であった。

新婚旅行でハワイにやってきたシドニー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)とクリフ(スティーヴ・ザーン)は、持ち前の冒険心から秘境の先にあるビーチを目指すことに。奥深く進み、まわりに観光客の姿がほとんど見えなくなるころ、彼らはこの島に男女二人組の恐ろしい殺人犯が潜伏していることを知る。彼らが真っ先に思い出したのは、途中で出会った怪しいカップルの事だったが……。

携帯電話もつながりにくい島=脱出困難な広義の密室内で繰り広げられるミステリー劇。主な登場人物は3カップル6人。犯人はこの中にいると思われるが、はたして主人公カップルは無事生還できるのであろうか。

ハワイの、それも観光客がめったにいかない秘境のすばらしい風景を堪能できる上、ハラハラドキドキよくできたサスペンスでもある。まさにポリティカル、いやトロピカル・サスペンスである。

序盤で一番笑えるのは、新婚旅行カップルがワイルドなイケメンガイドにつれられ森の中の泉にたどりつくと、そこにはイケメンくんの彼女が全裸で泳いでいるという、観客の度肝を抜く場面。思わず不朽の名作「ブルーラグーン」(1991)を思い出すが、案の定、ミラ・ジョヴォヴィッチ演じる新婦さんは、イケメンに誘われるとおもむろに服を脱ぎ、自分も嬉々として裸で泳ぎだす。新郎、立場なしの瞬間である。

そんなシーンをデビュー当時から依頼され、断りきれずに承諾し続けてきたこの美人女優の優しい性格を想像すると、思わず涙が出てくる。でも、今後も脱ぎ続けていただくよう、ここで公式に依頼しておく。

ミステリとしては、一瞬アンフェアじゃないの、と思うほどに衝撃的なラスト30分間が用意されているが、あとから検証するとギリギリ許されるレベルに収まっている。

とくに伏線の張り方はえらく大胆で、誰もがみているのに気づかないその数々のテクニックには感嘆する。同じシーンが、真相をしったあとだとまったく違ったものになる。セリフの意味も、180度変わってくる。きがついたら、すぐに2度目を見たくなるに違いない。そして、その2度目はまったく違った楽しみ方ができる。「ああ、なるほど騙されたよ、うまいなぁ。あ、ここにもヒントあるじゃん! ここにもここにも、悔しい〜」と。

惜しいのは、一気に真相をみせるモンタージュが、かなりわかりにくいという部分。説明過多にする必要はないが、ひとめで凄さをわからせる事も重要だ。

序盤から退屈知らずでスリルも満点。トロピカルな幸せ気分と、サスペンスのドキドキを同時に味わえる作品として、満足度はとても高い。



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