『今度は愛妻家』40点(100点満点中)
A Good Husband 2010年1月16日(土)ロードショー 2009年/日本/カラー/131分/配給:東映
原作:中谷まゆみ 監督:行定勲 脚本:伊藤ちひろ 出演:豊川悦司 薬師丸ひろ子

「甘さ」に疲れる

子供のいない夫婦にとって、離婚のハードルはさほど高くない。男にとっては経済的な痛手だがそれは、別れなくとも似たようなもの。基本的には、それほどドラマチックなイベントではなく、むしろアチラから言い出してくれりゃ万々歳、てなものである。

ところが、ここに夫婦の「別れ」を泣けるドラマに仕立ててしまった映画がある。『今度は愛妻家』がそれで、その意外なチャレンジにはあらゆる観客が驚かされることになるだろう。

かつては売れっ子カメラマンとしてならしたが、今ではすっかりやる気を失っている俊介(豊川悦司)。今日もそんな昔の栄光に憧れやってくる美人モデルとねんごろになろうとしていたが、そこに突然、妻のさくら(薬師丸ひろ子)の姿が。あわてて取り繕う彼の前で、しかしさくらは意外な事を言う。「子作りする気がないなら私と別れて」

うっとうしい古女房とて、いざ別れるとなれば狼狽するのは男のほうだ。自分にベタ惚れだろうと思っていた女。この映画では、そんな妻を突然失う事になった男のあわれな姿を、演劇風の軽妙な演出でユーモラスに描いていく。

主な舞台は仕事場をかねた主人公の自宅のワンセットであり、台詞は長く、そして多い。この閉塞感としつこさには辟易する観客もいるだろう。

しかしそれ以上に私がうんざりしたのは、本作のとてつもないスイートさ、甘さである。せっかくいいストーリーなのに、その舞台世界には毒がなく、善人ばかりの甘い世界があるだけ。光あふれる明るい映像も甘い甘い。隅から隅までほとんどファンタジーな恋愛至上主義が広がっている。

これが高校生向きなら別にいいと思うし、行定勲監督はむしろそういう層向きの映画を作っていたほうがいいと思うが、これは明らかに中年以上の既婚者に向けたメッセージである。いくらなんでも、この甘さでそれはないだろうと思う。

とくに見ていられないのが、クリスマスの主人公に、お仲間たちがいろいろな事を言う終盤のシーンである。ああいう状況の人に、ああいう台詞をいう人間がはたしているだろうか? 非現実的すぎて萎える瞬間である。大人の目で見ていると、どうにもついていけん、となってしまう。

主演二人が肩の力を抜いた自然な演技を見せており、とくに薬師丸ひろ子の(アイドル時代からの)ファンなら必見であろうかわいらしさを堪能できるが、それだけに映画作りの面における薄っぺらさに残念感が漂う。脚本も悪くないし、本当に惜しい一本である。

今度は愛妻家 (竹書房文庫)
原作者による小説版。この映画は舞台劇の映画化ですが、舞台劇ぽくする必要があったのかどうかは微妙。
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