『マッハ!弐』55点(100点満点中)
Ong bak 2 2010年お正月第弐弾、シネマスクエアとうきゅう他にてロードショー 2008年/タイ/カラー/98分/シネマスコープ/ドルビーSR 配給:クロックワークス
監督:トニー・ジャー、パンナー・リットグライ 脚本:パンナー・リットグライ 撮影:ナタウット・キティクン 出演:トニー・ジャー ソーラポン・チャートリー サルンヨー・ウォングックラチャン ダン・チューポン
個別の動きは素晴らしいが……
『マッハ!』(03年)で世界のアクション映画ファンに衝撃を与えたトニー・ジャーも、気づいてみればはや33歳。類まれなる運動能力も、ほうっておけば陰りが見えだす年齢である。
だから──というわけでもなかろうが、出世作の続編『マッハ!弐』で彼は、初の監督にチャレンジした。
15世紀半ばのタイ。山賊一味に育てられたティン(トニー・ジャー)は、あらゆる格闘技で突出した才能を見せ、やがてリーダーとして皆を率いるほどに成長する。だが彼には、そんな大任の前にやるべき復讐があった。
スコータイ王朝とアユタヤ王朝のせめぎあいを背景として、悪しきカルマに翻弄される若者の生き様を描くアクションもの。タイの歴史に疎いものにとっては、冒頭の背景説明から頭に入ってきにくい。現代を舞台にした前作とは、時代設定からしてまったくの別物だが、主人公の役名は同じである。
身よりなき主人公が身を寄せる山賊の村がなかなかキている。彼らはさすが山賊ということで、子供たちからおじいちゃんまで、様々な格闘技でみな体を鍛えている。
ただ、カンフーやムエタイはまだわかるが、よく見ると日本のサムライがいたり、後ろで爆弾テロの練習をしているやつがいたり、あげくの果てには手品師がお花を消したり出したりしている。自由すぎる山賊団というほかない。
そんな、トニー・ジャーの大好きなもの全開的な設定は、数々のアクションシーンにも反映される。今回彼は、ムエタイのみならずそうした様々な格闘術を披露する。手品やダンスが格闘の範疇に入るかどうかは微妙だが。
中でも必見なのは、トニー・ジャーがプロレスをやる場面である。そのフランケンシュタイナーの切れ味たるや笑えるほど鋭くて、今すぐにでもデビューできることうけあい。以前の主演作『トム・ヤム・クン!』にもプロレスラーが出てきたが、彼は相当「好き」なのだろう。
ほかにも中国拳法や多種多様な武器使用など、たくさんの引き出しを見せてくれるが、それらは「すごい!」でなく、どちらかというと演舞的な「美しさ」に近い。
そんなわけでトニー・ジャーの器用さは際立っているが、シンプルで純度の高い「凄み」には欠ける。マッハの続編には、やはり後者を期待する人が多いだろう。
CGやワイヤーワークも、前作同様使いませんと喧伝しているがどう見ても一部使っているように見える。ここはフリーダムな山賊団に免じて、大目に見てあげるほかない。
いいか悪いかはともかく予想を裏切る結末や、ワニやゾウを利用したタイらしいアクションなど、見るべき点は多々あれど、どこか地味でインパクトに欠ける続編。早くも先細りになりつつあるタイのアクション映画を最前線で支えるトニー・ジャーは、果たして次に何を仕掛けてくるのだろうか。