『牛の鈴音』55点(100点満点中)
Old Partner 2009年12月19日(土)より、シネマライズ、銀座シネパトス、新宿バルト9ほか全国ロードショー 2008 年/韓国映画/ドキュメンタリー/78分/配給:スターサンズ、シグロ
監督・脚本・編集:イ・チュンニョル 製作:スタジオ・ヌリンボ 撮影:チ・ジェウ 音楽:ホ・フン、ミン・ソユン 出演:チェ・ウォンギュン イ・サムスン

出てくる韓国人は天然のコメディスター

今年の韓国映画界最大のニュースをあげろといわれたら、間違いなくこの作品のお化けヒットということになるだろう。

小規模公開の地味なドキュメンタリー映画なのだが、瞬く間に口コミで評判が広がり、やがてあらゆる話題作、大作をうちやぶりついに興行成績1位に。最終的に300万人が見たというのだから尋常ではない。これは人口比率でいえば、日本における「ロード・オブ・ザ・リング」以上の特大ヒットだ。まったくもって、韓国人の好みはよくわからない。

で、どんな内容かというと、まず主人公は韓国の田舎に住む老夫婦。爺さん(79歳)の方は長年、一頭の牛とともに昔ながらの非機械化農業をやっている。通常、牛というのは寿命が15年だそうだが、この爺さんの牛はもう40年も生きているというからすごい。映画はこの牛と爺さんの奇妙な友情(愛情?)と、婆さんとの三角関係を淡々と追いかける。

普通にみれば退屈極まりない平凡なドキュメンタリーなのだが、終わってから思い直してみると、どうやらこの映画はコメディーとしてみるべきなのだとわかる。

とにかく、ここに出てくる連中は天然である。

まず主人公の爺さんであるが、老牛よりもアンタの方がヤバイだろといいたくなるほど疲れ切った風貌。「棺おけに半身浴してます」オーラが漂ってくる、きわめてあぶなっかしいジジィである。

その長年の伴侶である婆さんがまたひどい。

口を開けば悪態がマシンガンのように飛び出し、いつ終わるとも知れず続く。しかも「あんたと結婚してあたしの人生は台無しだ。本当に失敗したよ」とか、ことごとくシャレにならない毒舌ぶり。よくぞそんなに悪態の語彙があるもんだと、こちらは口ポカーン状態である。あの口の悪さは、プロの役者が演技しようとしても真似できまい。

そして、「牛とおじいさんの愛情物語」というからどんな素敵なものかと思ったが、爺さんが大事にしているこの40年物の牛がまた、近寄るのも嫌になるような小汚い牛。はたから見れば死にかけの爺さんが、これまた死にかけの小汚い牛に鞭打って虐待しているようにしか見えない。動物アイゴー団体がみたら、卒倒しそうなビジュアルである。

しかも死にかけのやせ牛だから力がない。牛車を引こうにも、爺さんと婆さんが同時に乗っただけでピクリとも動けない。柴犬のほうがよっぽど力がある。

すると爺さん、案外とぼけていて、よりにもよって婆さんに降りて歩けという。この爺さん、いつも言われっぱなしでだまっているが、なかなかどうして態度はひどい。きみたち絶対仲悪いでしょ、とつっこみたくなる爆笑シーンである。

だが婆さんも負けてはいない。折に触れ、爺さんが大事にしているその牛をうっぱらえ、とキツいプレッシャーをかける。

彼らの子供たちもまた天然のコメディスターで、一同集まった席ではそんな婆さんの言葉を真に受けて、よってたかって爺さんに早くそのボロ牛を売れとけしかける。年寄りの生きがいなど無視。無責任にもほどがあるテキトーさである。

どいつもこいつもろくでもない身勝手な人々だが、監督からすればただ普通に撮ってりゃコメディになるおいしい素材といえる。

ところが、やがて牛が最期を迎えるとき、あの性悪婆さんが意外なセリフを言う。これがこの映画のハイライト。ほぼ100%の人が、これにやられてしまう。

薄汚い田舎の風景で、小汚い牛が、似たようなジジババとろくでもない日常を繰り広げる。はっきりいって、目の保養になるものは一切ないが、それでもこのようにいいトコはある。

また、本国で大ヒットしたことから、摩訶不思議なお隣の民族を理解するための格好の素材ということもできるだろう。

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