『のだめカンタービレ 最終楽章 前編』55点(100点満点中)
2010年/日本/カラー/121分/配給:東宝
原作:二ノ宮知子(「のだめカンタービレ」講談社) 監督:武内英樹 脚本:衛藤凛 製作:フジテレビ 出演:上野樹里 玉木宏 瑛太 水川あさみ ベッキー 山田優

上野樹里&玉木宏は最高に面白い

映画「踊る大捜査線」が邦画史上に残る大ヒットを記録したので誤解している人が多いが、フジテレビはテレビドラマの映画化というものに、それほど熱心ではない。ちなみにその反対はTBSやテレビ朝日。彼らに比べればフジは、オリジナル脚本に力を入れるなど、きわめてまっとうな映画作りに力を注いできた。だが残念ながら彼らの勇気ある挑戦は、(われわれ批評家の責任でもあるが)人々に浸透せず、興収面では低調に終わった。

だから、というわけでもなかろうが、2010年のお正月シーズンに彼らは大ヒットテレビドラマ『のだめカンタービレ』の映画版をもってきた。内容は、のだめと千秋の恋の結末を描く真の完結編。二部構成の映画として、まずはその前編が公開される。

指揮者として認められた千秋(玉木宏)は、名門ルー・マルレ・オーケストラの常任指揮者に引き抜かれる。ところがその実態は、経営難でベテラン奏者がごっそり抜け、残ったものにも覇気がなく、皆バイトで生計を立てるほかないダメっぷり。公演まで日がなく焦る千秋は、のだめこと野田恵(上野樹里)にチェレスタ(鍵盤付きの打楽器の一種)の演奏を頼む。愛する千秋との初競演に、一人浮かれるのだめだが、団員たちの演奏はまるで揃う気配がなく……。

テレビドラマの映画化には、わざわざ映画館でやる必要を感じないものも多い。いわば、視聴者をかき集めての1800円募金大会である。しかし『のだめカンタービレ』は音楽を題材にしているから、迫力の音響を持つ映画館で回すことに一定の正当性がある。

テレビドラマ版同様、音源にはかなり気を使っている。主人公のだめのピアノを、北京オリンピック開会式にも登場した中国の名ピアニスト、ラン・ランが演じるなど、素晴らしい演奏を聴くことができる。そういえば、私が少し前にある若手バイオリニストの演奏会に出かけたとき、彼が本作の演奏を担当したと話しているのを偶然聞いて、びっくりした記憶がある。そうした数々のプロの手で、この作品の音楽は支えられている。

ラン・ラン&のだめの演奏による、えらく破天荒な解釈のトルコ行進曲は大きな見所だが、個人的に一番好きなのは最初の公演におけるボレロだ。ろくに練習ができなかったせいで、ボレロというよりボロボロ。こんな演奏では、たとえジョルジュ・ドンでもシルヴィ・ギエムでも、まず踊ることはできまい。泣きそうな表情の玉木宏がまた笑わせる。私には無理だったが、こんなに面白いシーンを文字通りシーンと見ていられるマスコミ試写室の面々というのは、ある意味すごいと思う。

前編ということで、クライマックスは意図的にやや早めに配置され、終盤は不穏なムードで締められる。来年春に予定されている後半に興味を持たせる常道手段といえる。

全体的にコメディ色が強く、いまさらいうまでもない上野樹里の怪演により爆笑確実。この世界観に慣れている人なら、十分満足できる仕上がりだ。ヨーロッパロケによる美しい映像も、もちろん注目。

とはいえ、コミック版もドラマ版も全部見たわけでもない私のような一見さんにとってはこの程度の満足度。シリアスパートについていけない分、これは仕方があるまい。

ともあれ、ご覧になる際はボレロ。このシーンだけなら100点。まずは、これを楽しみにお出かけを。



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