『ジュリー&ジュリア』60点(100点満点中)
Julie & Julia
2009年12月12日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開 2009年/アメリカ/カラー/123分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督・脚本・製作:ノーラ・エフロン 原作:ジュリー・パウエル 出演:メリル・ストリープ エイミー・アダムス スタンリー・トゥーチ クリス・メッシーナ
カリスマブロガーの美味しい挑戦
最近若い女の子と食事をすると、みなこぞって料理の写真をとる。合コン中だろうが一流レストランだろうが、彼女たちはおかまいなしだ。対面にいるこちらが相手にされていないという事実は置いておいて、可愛い若い子たちにも、その中にはあつかましいオバサンの要素が含まれるということかと思う瞬間である。
1949年、夫とパリにやってきたアメリカ人女性ジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)。ほがらかで、何より食べることが大好きな彼女は、フランス料理の繊細かつ深い味わいにハマる。早速ル・コルドン・ブルー(世界的に有名な料理学校)に通いはじめたジュリアは、やがてズボラなアメリカ人でもカンタンに作れるフランス料理の本を執筆し始める。
冒頭の女の子たちの撮った写真は、彼女たちの書くブログの材料となるわけだが、アメリカにもそんな「今日たべたもの日記」を書いて、有名になってしまった女性がいる。それが『ジュリー&ジュリア』のもう一人のヒロインであるジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)。
彼女は超ロングセラーであるジュリア・チャイルドの著書にあるレシピを、なんと毎日作り続け全制覇。その様子を描いた大人気ブログを契機に、この映画は作られた。映画は二つの時代、二人の女性の生き様を交互に描く、ユーモラスなドラマである。
ジュリア・チャイルドは185cmの大柄な女性ということだが、さすがの演技派メリル・ストリープも身長までは役作りできない。そこで随所にトリック撮影を使用してうまく見せている。ジュリアは何かと型破りな女性で、物怖じしない性格はのちに出演したテレビ番組でもよく表れている。
なにしろこのころは、テレビ局とはいえまだ録画機材が普及しておらず、ドラマだろうがバラエティだろうが生放送が基本だった時代。実際出演してみればわかるが、やりなおしの聞かない生放送の緊張感は別格である。まして料理番組ともなれば、放送するのもはばかられるような失敗も多かったようだが、彼女はそんなときでも慌てず大笑いして楽しく番組を続けた。どえらい肝っ玉である。
ちなみに、有名人は最良の人材といわれるとおり、夫を外交官にもつ彼女は実は米国のスパイだったとの裏話があるが、映画はもちろんそんなダーティーな部分にはふれない。
本作におけるジュリアは、真の主役たるブログの女王ジュリーのネタ元でありあこがれの人。映画はそのやや一方的な片思いと、ブログを書くことで自己実現をしようとする、いかにも現代的な若い女性の習性いや挑戦をライトに描く。
料理をケータイで写真に撮るのが習慣づいている女性なら、きっと共感できるだろう。演じるエイミー・アダムスは、好感度を数値化したら2009年現在100%にもっとも近い女優であろうから、ぴったりな配役といえる。
ただし脚本はこなれているとは言えず、快感度は低い。いろいろ問題はあるが、ひとつだけ言いたいのは、いちいち無理してヒロインを上げたり下げたりする必要はないということだ。そういうストーリーはとても安っぽい。
また、毎日あんなに大量の料理を作って、いったいこの人はどう処理してるんだとか、資金はどっから出てるんだとか、余計な事を考えさせてしまうあたりも処理が足りない。あんなモノを毎日腹に入れていたら、エイミー・アダムスのようなナイスバディになれるはずがない。こういう所に女性の観客は敏感である。製作者はもう少し気を配らないとダメだ。
逆にほめるべき点としては、相手役の男の食いっぷりがあげられる。こんなにご飯をうまそうに食べる人を、私は見たことがない。今年のアカデミー主演食べ方賞はこの人に決まりだろう。
二人の素敵な女優と彼の食いっぷりで、映画全体としてもなんとか持ったという感じである。