『パブリック・エネミーズ』55点(100点満点中)
Public Enemies 2009年12月12日(土)より TOHOシネマズスカラ座他にて全国ロードショー 2009年/日本/カラー/140分/配給:東宝東和
監督:マイケル・マン 脚本:ロナン・ベネット、マイケル・マン、アン・ビダーマン 出演:ジョニー・デップ クリスチャン・ベイル マリオン・コティヤール ビリー・クラダップ スティーヴン・ドーフ

不況になると登場するヒーロー

景気が悪くなり、世の中が殺伐としてくると、昔の犯罪者を肯定的に描く映画作品が作られる。かつては「社会の敵」といわれたほどの凶悪犯でも、手口が稚拙だったり、カタギに手を出さない律儀なところがあったりと、今どきの心無い連中に比べれば妙にのどかだ。人々はそれを見て、古きよき時代を懐かしんだりする。

仲間を決して裏切らず、女に優しく、一般客の金は奪わない。大恐慌に苦しむアメリカ国民は、そんな銀行強盗犯ジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)のニュースを痛快にすら感じていた。ジョンは美しい女性ビリー・フレシェット(マリオン・コティヤール)に出会い、永遠の愛を誓い合うが、彼らの前には国民にジョンの逮捕を宣言したFBI長官J・エドガー・フーバー(ビリー・クラダップ)とメルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベイル)ら、厳しい捜査の手が迫っていた。

ジョン・デリンジャーを描いた映画には、名脚本家であり監督のジョン・ミリアスによるものをはじめ、何本かあるが、そのジョン・ミリアス版が製作された73年ごろのアメリカも不景気だった。デリンジャー自身、不況時代のヒーローであるから、そうした企画が通りやすくなるのも当然か。

この2009年版も、金融危機以来の不況ムードを受けて作られたものであることは確実。変幻自在の役作りで知られるジョニー・デップは、当時の写真を参考に流行の髪形などを取り入れ、本物のジョン・デリンジャーを髣髴とさせながらもよりチャーミングで純粋な、魅力的なキャラクターを作り上げた。

偽物の銃で脱獄したり、「男の世界」を見たあとに起こる出来事など、有名なエピソードも丁寧に再現される。ジョニー・デップが身に着けるスーツ、マリオン・コティヤールのドレス姿などクラシックかつ華やかで、私を含め服好きにはたまらない。

また、当時の車もたくさん用意され撮影に利用されている。本物の迫力はでたものの、銃撃戦で穴ひとつあかないのはご愛嬌。当時、自動車は貴重品で、かつエンジンの過渡期にあたり性能の差が激しかった。設立したばかりで車をそろえるのに十分な予算がなかったFBIが、最新型の車を好んだデリンジャーに翻弄されたのはそれも理由のひとつだが、劇中ではあまりはっきりと説明はされない。

こうした細部にこだわりぬいたマイケル・マン監督の挑戦は確実に成功しているが、それがイコール映画の面白さにつながらないのが難しいところ。美術の美しさ、時代の再現性により物語のダイナミズムはむしろ殺されており、結果として「パブリック・エネミーズ」はじつに退屈だ。

ジョニー・デップがマリオン・コティヤールに恋する、物語の重要な主軸についても、その理由がよく伝わらない。可愛かった、以外にこの女性に恋したわけはなんだったのか。

人の心の資料はどこにも残っていないから、昔の町並みを復元するようにはいかない。制作費があろうが、オスカー受賞の美術スタッフがいようが、その力にはなれない。監督の想像力、創造力が問われる部分である。そして、こうした部分を再現するのが一番難しく、しかし重要ということだ。

デリンジャーの犯罪が時代遅れになっていくくだりはある種の切なさを持って描かれ、なかなか考えさせられるものもあり心惹かれたが、それ以上のものは残らず。主人公の人生は確かに今見ても面白いが、「それで?」と思わず言いたくなってしまう。

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