『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』65点(100点満点中)
2009年12月12日公開 全国東宝系 2009年/日本/カラー/135分/配給:東宝
企画・原作・総監督:西崎義展 原案:石原慎太郎 声の出演:山寺宏一 伊武雅刀 藤村歩 子安武人
敗戦のトラウマをヤマトが晴らす
『宇宙戦艦ヤマト』がなぜ中高年に人気があるかといえば、ぶっちゃけた話、この物語が日本人の敗戦のトラウマを晴らすものだからである。しかも、来年2010年の実写版を控えたこのアニメ版『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』の場合、敗戦コンプレックスの権化のような石原慎太郎が原案にクレジットされているのだから、なおさらだ。
宇宙戦艦ヤマトが自沈することで、回遊惑星アクエリアスから人類を救って17年。地球は移動性ブラックホールにより、再び消滅の危機に見舞われていた。対処法はなく、人々は3ヵ月後のブラックホール遭遇を前に、はるか遠くアマール星の衛星へと移民船団を出発させた。ところが、古代雪(声:由愛典子)率いる第一次移民船団は途中で謎の大艦隊に襲われ全滅。宇宙科学局長官の真田志郎(声:青野武)は、雪の夫で歴戦の勇者、古代進(声:山寺宏一)を地球に呼び寄せ、出発を控えた第三次移民船団の護衛を依頼する。
熱い。とにかく熱い、昭和オヤジのためのアニメーション作品である。
地球人は、もはや絶滅寸前。ようやく移民船団を組んだら、どこからの高性能宇宙艦隊に大虐殺されてしまう。もはや、頼りになるのは古代進と、沖田の子供たちの魂を受け継いだクルー。そして、17年間かけて大改修、復活した宇宙戦艦ヤマトである。
17年の間、(たぶん)機密費をたっぷりつぎこんだであろう新ヤマトは、波動砲も電算機能もパワーアップ(担当者はもちろんスレンダーな巨乳美少女である)。それが出航するシーンは、本作有数の盛り上がりを見せる。ヤマトにおける出発シーンは、見せ場として何より重要な箇所であるから、これは当然といえる。
石原慎太郎もきっとそうだと思うが、ある世代以上の日本人は、大きなトラウマを背負っている。それは、世界最強の戦艦大和を乏しい国力の中で開発、生産したというのに、それを十分に生かせずあっさり沈められてしまったことである。
大和が実際に役立たずだったかどうかは軍マニアから強烈な反論があることは承知しているが、重要なのは一般の人々がどう感じているかだ。人々は、今でも悔しくて仕方がないのである。大和さえフル活用できていたら、絶対に負けることなどなかった。そう信じている。
だからこのアニメシリーズは日本人の琴線に触れる。一度は沈んだ大和が宇宙戦艦ヤマトとしてよみがえり、人類を救う旅に出る。これを、敗戦国の妄想として笑うことは、やはり日本人としてはできないだろう。
しかもどうだ、この石原慎太郎版ときたら、敵はいたいけな民間人に対する大虐殺者。その名も「SUS」なる超大国率いる多国籍軍である。いやはや、こんなに露骨な脚本は、世界中どこを探しても見つかるまい。
『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』は日本民族のリベンジだ。反"USA"志向の鳩山政権にみせてあげれば、きっと喜んで宣伝してくれるに違いない。
ただ残念なことに、アニメーションとしての質は決して高いとはいいがたい。パチンコのプロモーション映像のほうがレベルが高いとか、声優やキャラデの変更に違和感があるとか、主題歌がささきいさおじゃないからダメとかいろいろ言われているが、ある意味、真実を言い当てている部分もある。
ただし、作り手の意地が見えるという意味で、私は本作に好感を抱いている。
たとえば先ほどの発進シーンなど重要な見せ場では、乏しい国力を集中した大和造船プロジェクトよろしく作業時間などを増やしたか、急に作画のクオリティがあがる。いまどきのアニメでそういう事をやると笑いものになりかねないが、そんなことはおかまいなしである。全シーンを完璧にできないことは自覚した上で、大事な所は手を抜きたくなかった。そんなスタッフの心が伝わってくる。
個人的なベストシークエンスは、ヤマトが護衛する移民船団をただの一隻も見捨てることなく、大軍相手に悲壮な戦いを繰り広げる場面だ。
無防備な民間船団を守るべく、ヤマトは自ら盾となり、敵の集中砲火を浴びながら一歩も引かず正面戦闘を繰り広げる。それはもう、鬼神のような物凄い奮戦である。
だいたい、地球の最新鋭戦艦がなんとか艦隊を組んで対処している大軍勢相手に、ヤマトはたった一隻で対峙しようとするのだから尋常ではない。普通なら逃げる。だが、これこそ「誰かがこれをやらねばならぬ、期待の人が俺たちならば」の精神、大和魂である。攻撃はすべて受けきり、その上で叩き潰す。まさに堂々たる横綱相撲。最強の戦艦に退却の文字はないのだ。
後半はハリウッド娯楽映画もはだしで逃げ出す、冗談のようなご都合主義が入り乱れるが、そんな荒っぽい脚本もそのうちどうでもよくなる。
ヤマトは熱ければ熱いほどよい。そのノリについていけるのならば、本作は十分楽しめる。
むろん、対象となる観客は、この記事で書いてきたトラウマにとらわれていればいるほど良い。最近は自虐史観の反動で若い人にも猛烈な愛国者が多いみたいだから、中高年のオジサンたちとも案外この感動を共有できるんじゃないか。