『マイマイ新子と千年の魔法』70点(100点満点中)
Mai Mai Miracle 2009年11月21日(土)より全国ロードショー 2009年/日本/93分/35mm/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル 配給:松竹
作者:高樹のぶ子 監督・脚本:片渕須直 声の出演:福田麻由子 水沢奈子 森迫永依 本上まなみ
説明できない良さ
『マイマイ新子と千年の魔法』は、たぶん興行的には相当厳しいのではないかと心配している。
なぜならこのアニメーション作品は、その良さを理解してくれるであろう対象年齢層が非常に高いためだ。はたしてそうした人々に、適切なプロモーションを行っていけるか。宣伝会社の手腕が問われるところだ。
昭和30年代、山口県防府市。空想好きな小学三年生の少女・新子(声:福田麻由子)は、東京からの転校生でこの土地になじめない貴伊子(声:水沢奈子)と仲良くなる。やがて新子の友達である男の子たちも加え、豊かな自然の中で遊ぶうち、貴伊子も本来の明るさを取り戻していく。
批評家としては一番まずい事なのだが、この映画で私は大いに感動したものの、その理由がわからないという状況に陥った。つまり、説明はできないが、とにかく心を打たれたのである。
そういう形で映画を褒めるのは仮にもプロとしては最低なので、なるべくその魅力を論理的に伝えるよう努力すると、まず『マイマイ新子と千年の魔法』最大の功績は、子供にしか見えぬ世界、すなわち「感性」を瑞々しく収めた事にあるだろう。
これは育児をした人ならきっと気づいている事だとと思うが、小さい子供には、彼らにしか見えない世界がある。大人と同じ地上に住んでいながら、彼らはまるで別のものを見ているのである。大人が見落とすような畳の端っこのでっぱりに、ときに彼らは冒険物語の欠片を見ていたりする。
一方大人が見ている世界には、常に死の影が存在する。老人はやがて死に、事故や事件はすぐそこで起き、人々の命を奪う。
本作が同時に描くこの二つの世界は、物理的には確かに同じだが、中身はまるで違うものだ。そして大事な事は、私たち大人も、かつては新子たちが生きる世界を見ていたという事だ。そうした思い出と、そのはかなさを思い起こさせるから、この映画は感動的なのではないか。
だがしかし、ただの田舎の風景をワンダーランドに変える新子の感性は、ひとりでに身についたものではない。ここが最重要点だが、彼女の空想力の発現には、適切な知識を与え続けた祖父の存在がトリガーとして不可欠なものであった。
当初の貴伊子になく新子にあったものは、この祖父のような存在である。だがその貴伊子も、新子という導き手により、やがて子供らしい感性を取り戻していく。
この物語は、子供の心=感性を育てるために、導く者が必要であることを、新子と祖父、貴伊子と新子、といったいくつもの人間関係によって繰り返し伝えてくる。
「時をかける少女」「サマーウォーズ」のマッドハウスによるアニメーションの出来栄えも安定感があり、声優たちも違和感はない。彩度を下げた時代性を感じる映像は、ココロに癒しをもたらす。
冒頭に書いたとおり、それこそ子供がいるような年齢の人々にこそ見てほしい作品。子供たちなど若い人はむしろ退屈してしまうのではという懸念があるが、それだけで捨て置くには惜しい魅力を持っている。