『天使の恋』75点(100点満点中)
2009年11月7日(土)より全国ロードショ 2009年/日本/カラー/118分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
監督・脚本:寒竹ゆり 原作:sin著「天使の恋」上・下巻(ゴマブックス刊) 出演:佐々木希 谷原章介 山本ひかる 大石参月
トンデモ物としては最高
『恋空』の倍以上読まれたといわれる大人気ケータイ小説の映画化である本作は、モデル出身の佐々木希のセミヌードポスターも大きな話題となった。そして実際見てみると、意外や意外、期待をはるかに上回る出来であった。
女子高生の理央(佐々木希)は、誰もが振り向くルックスと、 クラスのいじめられっ子(山本ひかる)を救ってしまう優しさで、独特のカリスマを放っていた。そんな彼女は、ある日写真店のミスで、同じ姓の別人のプリントを渡されてしまう。そこに写っていた大学講師(谷原章介)に惹かれた彼女は、思わず直接会う約束を取り付けるが……。
女子中学生の皆さんがどう思うかは知らないが、個人的にケータイ小説映画に望むものは、そこそこリアルな登場人物と、絶対にありえない素っ頓狂なストーリー。その点本作は、間違いなくパーフェクトである。
原作をまったく知らずに見たこともあるが、私が想像できたのは同性愛やら援助交際あたりまで。ヒロインがものすごい悪女だろうというあたりも予想がつく。
だが『天使の恋』ときたら、序盤の不穏な流れに身構えていると唐突に方向転換。胸キュンときめきラブコメになってしまう。その恥ずかし感ときたら、冒頭の乾いた残酷ムードとは大違い。オバマ大統領もびっくりのチェンジ度合いである。
それに合わせて主演・佐々木希も、クールで本音を表に出さない怖〜い女子高生悪魔から、ノーテンキな恋する少女に変貌してしまう。数々の修羅場を潜り抜けてきたこの私でさえも、この展開は読めなかった。原作者と脚本家に対し、素直に脱帽する。
それにしても、佐々木希も相手役の谷原章介の演技も、あまりに不自然すぎて最高だ。この魅力は説明しにくいのだが、まるでかみ合っていない間、とでもいおうか。見ていて笑いをこらえきれぬものがある。初デートの場面など、冗談にしても悪乗りぶりに涙が出る。きっと計算の上でそう演出しているのであろう、寒竹ゆり監督も相当な大物だ。
しかしながらその、癖になるような独特の雰囲気に観客は飲み込まれ、やがて目が離せなくなる。年甲斐もなく、こんなギャグだかシリアスだかわからぬ話に夢中になってしまう自分にご褒美をあげたい。
佐々木希は身長168cmというが、頭がやたらと小さいのでずっと高く見える。プロポーションの良さは尋常でなく、全裸で横たわる後姿の足元からカメラがパンして、ほっそりした太ももからお尻、そしてウエストのくびれが写った瞬間、周りの女性たちから羨望のため息が聞こえた気すらした。そこでタイトルが出るわけだが、のっけから美肌のアップで観客の度肝を抜く女優というのはなかなかいない。モデルらしい、さすがの脱ぎっぷりといえるだろう。
一方で、女性とのキスシーンなどは、すれた女子高生役とは思えぬたどたどしい動き。そのつたない演技力のおかげで、きっと私生活では受身なのだろうと想像でき、じつにエロティックである。
いずれにせよ、見所満載のケータイラブストーリー。私のような、明らかに主要なターゲットと違う観客の共感さえ得るに十分な仕上がり。評論家ではなく、まさに観客のための映画。とくにクライマックスの駅ホームでの場面は、ぜひ観客全員で拍手してあげよう。