『さまよう刃』60点(100点満点中)
2009年10月10日、全国公開 2009年/日本/カラー/112分/配給:東映
原作/東野圭吾「さまよう刃」(角川文庫刊) 監督・脚本/益子昌一  音楽/川井憲次 出演: 寺尾聰 竹野内豊 伊東四朗 山谷初男

東野圭吾の社会派ミステリを映画化

手元にはあるのだが、あまりの分厚さにいまだ原作を読んでいない。だから映画との違いはわからないが、なんとなく想像がついてきた。というのはすなわち、なぜこの映画がイマイチなのか、という理由についてである。

長峰重樹(寺尾聰)にとって、妻が死んで以来、唯一の家族で希望そのものだった高校生の娘、絵摩(伊東遥)が殺された。絶望に打ちひしがれる重樹の元に、ある日匿名で電話が入る。それは、犯人の名前と住所を密告する内容だった。

愛するものを奪った犯人に、警察も法も届かない。そんなとき人間は何を考え、どう事態(と自らの心)に決着をつけようとするのか。重いテーマをもつ犯罪ドラマだ。その主題に合わせるように、映像も重苦しい質感。深い悲しみを内に秘める中年男、といった人物は、主演の寺尾聰にとってもハマり役だろう。

ただし、それだけじゃどうにもカバーしきれない、作風に似つかわしくないマヌケさが本作には残っている。警察の捜査は妙にずさんだし、武装した事件関係者を放置プレイしているなど、見ていて脳内にハテナがつく箇所が多数見受けられる。ミステリ的趣向をこらした最終局面など、主人公の行動にもついていけない部分がいくつかある。

そう感じる理由については冒頭にも少しふれたが、要するに説明不足。長大な原作ではじっくりステップを踏み、主人公の行動について説得力を高めてゆけたとしても、短時間の映画でそれを再現するのは難しいということか。そのためにあらゆる省略の手法を使い、脚色するわけだが、そこに力不足の感が否めない。結果として、見ていてストレスがたまる。

こうした社会派ものの映画化としては、よく頑張った方だと思うし、邦画としては平均以上の出来なのは間違いない。というか、わざわざ「邦画としては」などと書かねばならない状況が、毎回情けなくなるという話なのだが。



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