『カイジ 人生逆転ゲーム』80点(100点満点中)
2009年10月10日公開 全国東宝系ロードショー 2009年/日本/カラー/130分/配給:東宝
監督:佐藤東弥 脚本:大森美香 出演:藤原竜也 天海祐希 香川照之

「揃いも揃ってクズでござい、ってツラしてやがる!」

福本伸行の漫画は、手軽に人生の極意を学べることで、若い人に大人気だ。独特の台詞回しや擬音、個性的な絵柄など、語るに足る要素を多く備えることから、インターネット上でも共通のネタ基盤として確立されている。『カイジ 人生逆転ゲーム』は、その待ちに待った、そして誰もが「無理だろ」と思う実写映画化である。

最底辺の自堕落な生活を送りながらも、認めようとしない典型的なダメ人間カイジ(藤原竜也)。あるとき彼の元に、借金取りがやってくる。覚えのない借金だったが、気軽に保証人の判を押していたためだ。バイト生活のカイジに返せるカネがあるはずもなく、半ば自動的に借金棒引きゲームが開催される客船エスポワール号へと参加することになる。

この、エスポワール号で行われる幾多の「ゲーム」を、CGなどをふんだんに使った見せ場として描くエンタテイメント作品。最初に行われる「限定ジャンケン」など、原作ファン垂涎の展開が楽しめる。

興味深いのは、本作が一作目「賭博黙示録カイジ」のみならず、「賭博破戒録カイジ」といった続編の内容をも取り入れていること。個人的には、地下の班長が最初に登場するあの場面が実写で見られたのは、大きな喜びであった。

「キンキンに冷えてやがる」といった名台詞も、まったく変更、アレンジされずに再現され、いろいろな意味で爆笑を誘う。ただひとつ苦言を呈すると、あのビールは絶対にミニ缶でなければならなかった。ここは絶対に譲れない一線であるから、私としては大きなマイナスである。ちなみに試写室では、この場面を含め、原作を読んだと思しき人々だけが全編笑っていた。ほとんど苦笑だが。

それにしても、『賭博破戒録』で最も印象的なこの場面を入れ込んだセンスは素晴らしい。ただもったいないと思うのは、これでは映画の続編がつくれないではないか、という点だ。正直言って、今回の映画化に私は珍しく大満足している。この監督のセンスで、おっちゃんや三好といった愉快なキャラクターを描いてほしかった。なお三好のほうは、ほんのチラリとだが本作にも登場する。説明がなくとも、たぶん皆さん一目でわかる。そこがまた楽しい。

そんな佐藤東弥監督は、前作『ごくせん THE MOVIE』はイマイチだったが、本作は父親の佐藤純彌監督(「新幹線大爆破」「男たちの大和/YAMATO」)を彷彿とさせる、「不器用だけども真っ直ぐで憎めない」、こまかいことはいいんだよと思わせる大作演出を見せてくれた。

原作者もあきれるほどの真っ向勝負的実写化で、ざわざわも台詞回しも全部採用。綺麗にまとめようとか、映画らしくしようなんて気はさらさらない。おバカ上等、カルト上等、この調子で、次もがんばってほしいと思う。

主演の藤原竜也は、カイジのもつクレバーさ、ちょいと抜けたチャーミングさ、そして熱さをすべて表現しており素晴らしい。あごはとがっていないが、これは間違いなくカイジだ。

問題点としては、いろいろと混ぜたために、論理的な原作の流れが失われ、強引すぎる脚本面に不具合が多数でていること。あれで原作は説得力の塊だから、こういうご都合主義ストーリーだとその本質から外れてしまう。未読者にナンセンス劇だと思われてしまうのは、いちファンとしてはしゃくである。

いずれにしても、この映画は原作ファンのツッコミ見専用。マンガ版の完成度はきわめて高く、あれだけで十分。「できれば実写でみてみたい」などと考えている人はまずいないはず。つまり、完全なオマケとして、寛大な心でお出かけになることが重要だ。

カイジ―賭博黙示録 (1) (ヤンマガKC (608))
子を持つ親なら、わが子に読ませるべき1冊でしょう。
逆境無頼カイジ 金は命より重いTシャツ ブラック サイズ:M
これは笑った。でもいつ着るのさ!


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