『私の中のあなた』85点(100点満点中)
My Sisters keeper 2009年10月9日(金)より TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー! 2009年/アメリカ/カラー/110分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ Powered by ヒューマックスシネマ
監督:ニック・カサヴェテス 出演:キャメロン・ディアス アビゲイル・ブレスリン

見終わったあとに議論がまきおこる

どんなに若くても、女は女。たとえ11歳の子供に見えても、その中には大人をさえうならせるオンナの一片が必ず入っている。

11歳のアナ(アビゲイル・ブレスリン)はテレビCMで有名な弁護士を雇った。母親(キャメロン・ディアス)らを訴えるためだ。じつはアナは、白血病の姉ケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)のために生まれたデザイナーズベイビー。姉の命を守るため、これまで臓器や血液を提供する事を期待されてきたが、いまその方針に反旗を翻した。たとえ姉の命が縮んでも、自分らしく生きたいというのだ。

キャメロン・ディアス演じるお母さんはびっくり仰天。アナが臓器を分け与えなければ愛するケイトは死ぬ。お前は姉が死んでもいいのかと狼狽する。母は病気のケイトを守るため、この家族のために輝かしい弁護士のキャリアまで捨てたのだ。家族は助け合うのが当然ではないか。なのになぜアナは協力しようとしない?

まったく相容れない二つの考え方。二人のオンナの価値観のぶつかりあい、だ。これを見るあなたは、どちらに近い考え方だろうか。いずれにしても、当初の先入観を裏切るだけの興味深いストーリーを、この映画は見せてくれるだろう。

「ある人物のスペアパーツ供給源として誰かを生む」といった話は、現実にもなかったわけではない。しかし、この映画ほどあからさまに、遺伝子を操作してドナーを作り出すという設定をみると、さすがにぎょっとする。ただ、それを差っぴいても、臓器ひとつで姉が助かるなら我慢してやれよと、たいていの人は思うだろう。

この極端なSF的設定からは、脳死臓器移植といった現実に存在する医療行為も連想できる。現在は、ほかに手段がないからやむなくこんな治療行為が行われてはいるが、その結果として、人工臓器研究の停滞といった好ましくない弊害も起きるだろう。

脳死判定などはリトマス試験紙のように絶対的なものではないから、救命に専念していればドナー側が救われた可能性がある症例も、この日本で実際に起きている。ろくに実態を調べもせず、気軽にドナーカードを持っていたがために救命措置がおろそかにされる可能性は常にあるわけで、能天気に美談扱いなどできる話ではないわけだ。

この映画は、心臓病の娘を持つニック・カサヴェテス監督と、撮影前に父親を亡くしたばかりのキャメロン・ディアスがともに真剣に取り組んだおかげで、きわめて丁寧な描写と心のこもった演技を堪能できる良質な作品になっている。だがこれが傑作になった真の理由は、上記のような臓器移植問題についても、重要な示唆を与えてくれる点にあろう。

二つの価値観のぶつかり合い、家族のあり方の問題、そして、隠れテーマとして実は○が○を救う物語であることなど、複数のテーマを味わえる、見ごたえあるドラマになっている。

涙腺を刺激する場面も多数。ぜひ大切な人とともに見て、生と死について議論をかわしていただきたい。そういう楽しみ方が、一番適している。

わたしのなかのあなた (Hayakawa Novels)
原作。表紙がいい感じ。
脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書)
これは否定側の意見ですかね。


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