『カムイ外伝』30点(100点満点中)
2009年9月19日、丸の内ピカデリー2ほか全国ロードショー 2008年/日本/カラー/120分/企画・配給:松竹
監督:崔洋一 原作:白土三平 『カムイ外伝』(小学館刊) 脚本:宮藤官九郎 崔洋一 音楽:岩代太郎 企画・配給:松竹 出演:松山ケンイチ 小雪 伊藤英明 大後寿々花 イーキン・チェン
スタッフの人選を誤ったか
劇画作家・白土三平の代表作『カムイ伝』シリーズは抜群の知名度を誇るベストセラーコミック。そこから部落差別など社会派的要素をそぎ落とし、痛快アクションとして作られたこの『カムイ外伝』実写版も、大きな期待を寄せられている。
17世紀、日本社会の最下層で生まれ育った忍者カムイ(松山ケンイチ)は、殺戮に明け暮れる自由のない日々に嫌気が差し、忍の世界から逃げ出した。永遠に追われ続ける運命となった彼は、かつての仲間たちでもある追っ手と激しい戦いを繰り返しながら、ある港町にたどり着く。そこでカムイは同じ"抜け忍"のスガル(小雪)とその娘サヤカ(大後寿々花)と出会う。
日本映画界の重鎮・崔洋一監督(「血と骨」(2004))、そして日本一の人気脚本家・宮藤官九郎。堂々たるスタッフの名前が並んているが、どう見ても彼らの得意分野とはズレたコンセプトによる映画化で、いずれも力を発揮できていない印象。
そりゃ彼らクラスになれば、たとえ一度も時代劇を撮ったことがなくてもそれなりのものは作れるし、手堅い脚本だって書けるだろう。今までとは毛色の違った仕事をさせることで、面白いものが生まれる可能性だってある。
しかし本作の場合は残念ながら裏目。崔洋一監督の時代劇演出は、ただでさえ様式美とは無縁の上に、不出来なCGによってさらにチープな印象に。何がしかのデジタル技術で味付けされたと思しき、船が大海に出る場面などは、どうみても前に進んでいるように見えなかったりする。忍者が崖を一気に駆け上がるアクションも、途中で無駄な宙返りをしたりして、妙に子供っぽい。
唯一気を吐いていたのが、アクション監督・谷垣健治によるソードアクション。演技指導がいいのか、『ラスト・ブラッド』(08年)でワイヤーワークをこなしたばかりの小雪はもちろん、この手のアクションの経験はあまりないであろう松山ケンイチでさえ、それなりにかっこよく見える。彼と「最後の敵」との戦いは、アクションスター同士かと思うほどに見ごたえがある。その他、集団戦闘シーンの中にも、砂に潜んだり、相手のひざの裏を狙うといったいかにも忍者らしい全周囲的戦術が見られるので要注目だ。
いっそ、原作内容をさらに無視して、こうしたアクションに特化した形に突き抜けてしまえばそれなりに見られたのでは、と思うほど。しかしすべては後の祭り。一流のスタッフをそろえても、不慣れなものを作らせればいいものはできない。ひとり職人としての仕事を全うした谷垣アクションのポテンシャルを感じるほどに、そう思う。