『ココ・アヴァン・シャネル』35点(100点満点中)
Coco avant Chanel 2009年9月18日、丸の内ピカデリー、渋谷シネパレスにてロードショー 2009年/フランス/カラー/110分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:アンヌ・フォンテーヌ 出演:オドレイ・トトゥ ブノワ・ボールブールド エマニュエル・ドゥボス マリー・ジラン
シャネル純正なのにいまひとつ
8月8日に日本公開したばかりの『ココ・シャネル』(アメリカ/イタリア/フランス、08年)に続く、シャネル映画第二弾。なんといってもこちらはシャネル社が全面協力し、イメージキャラクターのオドレイ・トトゥを主演にした、一連の当ブランド映画の中でも本命。しかしどうしたものだろう、もっとも力が入っているはずの本家版の、このたよりなさときたら。
孤児院で育ったガブリエル(オドレイ・トトゥ)は、お針子をしながらいつか歌手になる日を夢見て、日々キャバレーで歌っている。あるとき彼女は裕福な将校エティエンヌ(ブノワ・ポールヴールド)と出会い、その愛人になることで貧しい日々を抜け出そうとするが……。
今これを見たら、どうしたって『ココ・シャネル』と比べてしまう。そしてあらゆる点で本作はそちらに劣っている。まず最初に気がかりなのは、ココの生い立ちと内面描写に関して説明不足なため、観客がこの主人公を誤解するのではないかという点。
本作のヒロイン(特に序盤)は、まるで場末のしたたかな娼婦といった様子で、どうにも共感しにくい。どうしてそんなに男性に対しつっけんどんなのか、観客は理解に苦しむ。最底辺の暮らしの中でも誇りを失わずに生きている必死さ、気高さが感じられない。この点、『ココ・シャネル』のヒロインはキュートで、思わず応援したくなるような可憐さがあった。
持ち歌を歌う場面の脚色も、『ココ・シャネル』は上手かった。見栄を張っても嫌味にならないかわいらしさをよく表現できていた。気軽にシャネルのブランドストーリーに酔いたい人には、全面協力のこちらではなく、『ココ・シャネル』がおすすめだ。
本作はむしろ、中途半端なラブストーリーといった趣。ブランド公式ムービーとして、表面的なステキな部分だけ描くのかと思いきや、愛人と雇い主の圧倒的な力関係を背景にねちねちいじめられる場面など、生々しい描写もあったりする。決して悪いというわけではないが、美術や衣装もくすんだ色合いでなんだか汚らしい。
詳しく半生と内面を描いていた『ココ・シャネル』をすでに見ている人は、それがいい補完になってくれるが、こちらだけ見るとまるでココという人は、すれからしの野生児そのものと思ってしまうのではないか。ただの変わり者、といわれたって否定できない。それで最後にファッションショーときても、なんだかとってつけたようで盛り上がらぬ。
オドレイ・トトゥのココに魅力が足りない、その一点が最後まで尾を引き、鑑賞満足度を下げる要因となってしまったのは真に惜しい限りだ。