『96時間』85点(100点満点中)
Taken 2009年8月22日、TOHOシネマズ 有楽座他 全国ロードショー 2008年/フランス/カラー/93分/配給:20世紀フォックス映画
監督:ピエール・モレル 製作・脚本:リュック・ベッソ 脚本:ロバート・マーク・ケイメン 出演:リーアム・ニーソン ファムケ・ヤンセン マギー・グレイス

史上最強のお父さんが登場

アイデアが枯渇気味で、四六時中知恵を絞ってうんうん唸っているハリウッドのプロデューサーらは、『96時間』を見て目からうろこが落ちたのではないだろうか。

特筆すべきは驚くべきシンプルさ。なんのひねりもない、まっすぐ一直線なストーリー。それなのに、異様に面白い。忘れていた娯楽映画の原点を思い知らされる本作は、米国民にも大受けし、見事その週の興行ランキング一位を記録した。

かつて秘密工作員として腕を鳴らしたブライアン(リーアム・ニーソン)は、今はカリフォルニアで引退生活を送っている。別れた妻(ファムケ・ヤンセン)は大富豪と再婚し、最愛の娘キム(マギー・グレイス)も彼らと暮らしていた。ある日、キムが友人同士でフランス旅行へいくとの話を聞いたブライアンは、17歳という彼女の年齢から猛反対する。だが、結局妻らに押し切られてしまう。しかしブライアンの悪い予感は的中し、キムはパリで謎の誘拐犯に拉致されてしまう。

誘拐された娘を、力づくで取り戻す。たったそれだけのストーリーである。だが、サスペンスアクションはそれだけで立派に成立する。ピエール・モレル監督は持ち前の勘のよさと、元撮影監督としての技術を生かした映像美で、ほぼ完璧なエンタテイメントを作り上げた。

しかしこの、ハッスル父さん大活躍話には、筋書きがシンプルだからこそ相当な工夫がなされている。

たとえば、父親の反対をふりきって、地球最悪の無法地帯パリへ出かけてしまう娘。一歩間違えば、そんなバカ娘ほうって置けよ、となるところを、さらに輪をかけたハイパーバカ女を友人として近くに配置することにより、娘のバカさ加減を中和している。バカはバカをもって制する。バカ中和剤としての役割を、この友人役は見事に果たした。

さらに娘の誕生パーティーシーンでは、父親へのやさしさを示す場面を印象深く挿入しておくことで、観客はこの娘を「なんとか許せるオチャメな少女」として認識する。これにより、「この娘を救うためなら何でもやってよし」との同意が観客の中に形成され、無条件の共感を集めることに成功しているのである。

こうなれば無敵。あとは元諜報部員に超人的な大活躍をさせるのみ、だ。グダグダとパンチキックのやりとりなどせず、悪党は瞬殺。96時間というリミットが切ってあるから、ザコ倒しは短いほど快感度が増す。監督はよくわかっている。

圧巻なのは、娘がさらわれる瞬間の父親の行動。幸い携帯電話がつながっている(しかし二人の距離は絶望的なまでに離れている)という、その一点の有利を、このスーパーパパがどう生かすのか。誰もが「絶対無理」と思っているような逆境で、この主人公はすさまじい踏ん張りを見せる。やはりお父さんたるもの、このくらい頼りにならないといけない。

ご都合主義の塊のような脚本も、妙に愛せてしまう。昔ながらの勧善懲悪だから、何も考えず、ネズミや犬でも楽しめる。

細かいアイデアと工夫に満ちた『96時間』の主人公の活躍は、観客の予想のはるか上をいき、とっても気持ちいい、頼もしい。ピエール・モレル監督の次回作は東京が舞台という噂だが、今から待ち遠しい限りだ。

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同じ監督の、パルクールアクションの痛快作。
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