『縞模様のパジャマの少年』90点(100点満点中)
THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS 2009年8月8日 恵比寿ガーデンシネマ・角川シネマ新宿他にて全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/94分/配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
監督・脚本:マーク・ハーマン 原作:ジョン・ボイン『縞模様のパジャマの少年』(岩波書店刊) 音楽:ジェームズ・ホーナー 出演:エイサ・バターフィールド ジャック・スキャンロン アンバー・ビーティー デヴィッド・シューリス
今年ナンバーワンのショッキング映画
ナチスものというのは、私を含め多くの日本人が、ほとんど興味をもてないテーマだろうと思う。ユダヤ人優位のアメリカ映画界では永遠の定番テーマだが、それに私たちが付き合う必要はまったくない。だから本作に対しても、相当冷めた目で見始めたことを最初にお伝えしておく。
第二次大戦下のベルリン、8歳の少年ブルーノ(エイサ・バターフィールド)の父親はナチス将校。その転属に伴う引越し先は、片田舎の森の中だった。そこにはフェンスに囲まれた「農場」があり、大勢の大人が働いている。ある日、ブルーノはこっそり近づいた塀の向こうに、同じくらいの歳の子供を発見する。顔色が悪く、がりがりにやせた少年はシュムエル(ジャック・スキャンロン)と名乗った。塀の中の他の大人たちと同じ「縞模様のパジャマ」を着ている彼との奇妙な交流が、その日を境に始まった。
これを見終わったとき、私は大きな認識違いをしていたことに気づかされた。これは古びた「ナチス映画」などではなかった。きわめて普遍的なテーマを持つ、現代的な映画であった。ショックを受けたという意味では、今年始まって以来ダントツのナンバーワンといっても過言ではない。
なにが衝撃かというと、この映画を見ると自分がいかに想像力の欠如した人間だったかに気づかされるからだ。私は基本的に、あらゆる自分の能力を平均以上と考えたことは無いが、想像力に関してだけは、多少の自信があった。それを打ち砕かれた、いや、打ち砕いてくれたからこそこの映画はショッキングだったし、また強く感謝もしている。
「農場」とは言うまでも無くユダヤ人収容所であり、一寸先は文字通り闇、死が充満したエリアである。8歳という年齢は、その意味を理解するにはあまりにも幼すぎる。その純粋さが、死の残酷さ、それをもたらした人々の悪意の罪深さを強調する。
言葉でなく、映画らしく「絵」で説明するストーリーテリングも心地よい。人が焼かれる煙、ユダヤ人殺害現場を清掃するメイドの表情、つみあげられた「パジャマ」……。そういった映像で、あらゆる感情を描き、観客の想像力を喚起させる。そして最後に、調子に乗ってわかった気になっている観客の心を破壊する。人の心の真の痛みとは、今のお前たちには片鱗さえ想像できぬことなのだと突きつけてくる。強烈なインパクトだ。
ベーシックな感動もの、戦争映画、そういったものを期待する人には刺激が強すぎる。並大抵の映画じゃ満足できない、そういった通の映画ファンなどに本作をすすめたい。年齢としては、若い人よりも小さい子供がいるような層にこそ、響くものがあるはずだ。