『G.I.ジョー』60点(100点満点中)
G.I. Joe 2009年8月7日(金) 丸の内ルーブルほか全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/118分/配給:パラマウント
監督:スティーブン・ソマーズ 脚本:スチュアート・ビーティ、スキップ・ウッズ 出演:ブレンダン・フレイザー チャニング・テイタム シエナ・ミラー イ・ビョンホン デニス・クエイド

イ・ビョンホンが日本の忍者を好演

『G.I.ジョー』は、テレビ番組で流される紹介映像や予告編を見てから本編を見たとき、「このシーン、そういえば前に見た気がする」感を味わえる典型的な映画である。

ナノテクを駆使して作られた究極のウィルス兵器を輸送中のNATO軍が襲われた。しかも謎の襲撃軍は、デューク(チャニング・テイタム)、リップ・コード(マーロン・ウェイアンズ)ら優秀な隊員らの奮闘を一息で吹き飛ばすかのような強力な装備を持っていた。やがて絶体絶命のNATO軍の前に、見たこともない別の兵士が現れる。

私の場合は、試写などで本編をみてから冒頭に書いたような映画紹介番組等を見ているわけだが、これが笑ってしまうほどにネタバレで参る。勘のいい人なら、そのコーナーを見るだけで、最初から最後までストーリーを言い当てられるほどだろう。あわせて映像的な見せ場もほぼ紹介されているので、映画館に行く必要はほとんど感じられない。最近のは、見ずとも記事をかけるよ、などと映画専門でないライターに言われても、反論すらできないのが情けない。

この作品は、間違いなくトランスフォーマーの下のどじょうを狙って作られたものだが、ただでさえ出来が劣る上に、こうしたネタバレ紹介をくらってしまうとかなりきつい。

ちなみに出来が劣る理由は、キャラクターが生きていない、この一点に尽きる。

せっかくそれぞれの兵士が持つ能力も、性格の違いも、適切な活躍の場が少ない事もあって描き分けられていない。きっとこういう漫画的な内容は、日本のアニメ作家にやらせたらさぞ上手に作るだろう。ハリウッドの実写映画は、ことさら視覚的な面ばかり派手にしようとしがちで、その能力の(物語上の)必要性を描く重要さに気づいていないケースがときおり見られる。

具体的に言うと、本作の特殊兵士たちの装備・能力は、あきらかにオーバースペックすぎる。そのありあまる装備をもてあましているのがミエミエで、結果として観客には残尿感が残る。

過ぎたるは及ばざるが如し。ヒーローとは、シンプルな装備・能力を目いっぱい使い、ときには意外な工夫でその効果を2倍、3倍にあげる知恵を見せなくてはならない。それが観客の予期せぬやり方であればあるほど、快感をもたらしてくれる。

なのに本作のスーパー兵士たちときたら、無敵状態のスーパーマリオが時間無制限で走り回っているような状態で、見ていてまったくスリルがない。また、映画オリジナルの装備と、本物のNATO軍などの兵装の、あまりの質感の差にも興ざめする。カメラも不要に動きすぎており、肝心なときに何をしているかわかりにくい。

それでも目を引いたのは、やや甘い仕上がりながら自慢の肉体を見せ付ける白忍者イ・ビョンホン。新スターウォーズで人気の悪役ダース・モールの中に入っていた事で知られるレイ・パークが演じる黒忍者との戦いなどは、両者キレのいい動きで見ごたえがある。

アメリカ人は日本の忍者を超人か何かと勘違いしているので、ハイテクモビルスーツを着た兵士よりも、生身の彼らのほうがずっと強い。著しくバランスを欠いたキャラ設定がたいへん微笑ましい。

復刻版コンバットジョーで遊んだ世代としては、『G.I.ジョー』アニメ版の実写化たる本作に期待するところ大だったため、少々辛口になってしまったが、事前に何も情報を仕入れずに見に行けば、そこそこ退屈はせずにすむ、その程度の満足は得られるのではないだろうか。



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