『サマーウォーズ』70点(100点満点中)
summer wars 2009年8月1日(土)新宿バルト9、池袋HUMAXシネマズ、梅田ブルク7 他 全国ロードショー 2009年/日本/カラー/114分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子 キャラクターデザイン:貞本義行 美術監督:武重洋二 声の出演:神木隆之介 桜庭ななみ 谷村美月 仲里依紗
『時かけ』の監督が送る近未来ホームドラマアクション?!≫
『サマーウォーズ』を一言で言えばとっぴなお話、ということになるが、これを全国公開の長編作品にまでまとめあげた細田守監督の力はさすがだ。きっとアニメーション版『時をかける少女』(06年)の成功が大きな自信となり、いい意味で迷いを吹っ切れているのだろう。
数学だけは得意だが内気な健二(神木隆之介)は、学園のアイドル的な先輩夏希(桜庭ななみ)から「私と二人で実家に戻り、数日過ごすこと」という素敵なアルバイトの申し出を受ける。彼女の実家は由緒ある戦国武将の家系で、その日は現当主、栄(富司純子)の90歳の誕生日とあって、大勢の親類が集まっていた。すると夏希は、そこで健二にとんでもない真意を明かす。
田舎で大勢が集まって、あれやこれや大騒ぎするというと、いかにも日本的ホームドラマだが、正直あまり興味はない──それが、事前に私が感じていたすべてだった。
ところが始まってみると、そんな簡単には説明できぬほどストーリーはぶっ飛んでいき、やがて世界の破滅だの宇宙にまでその規模は膨らんでいく。アニメーションならではの発想の無限の広がりを、まずは評価したい。
しかし監督の頭の中は完全に整理されており、それを観客に的確に伝える能力もあることは、スピーディーな冒頭ですぐにわかる。雄大な音楽に乗せ、この世界の概要、大勢の親類紹介、主人公の特技、ヒロインの魅力といった、クライマックスの伏線となる要素をすべて網羅。このハイテンポさが気持ちよい。
この作品世界では、今はなきセカンドライフ(いやあるが)を5万倍くらい発展させたバーチャルコミュニティが、社会のインフラとして不可欠なものになっている。OZと呼ばれるそこでは、携帯電話やPC等から国民すべてがアクセスし、娯楽・買い物から役所の手続き等、生活に必要なほぼすべての事務作業を行うことができる。
映画ではこのOZと現実社会が交互に描かれるが、その両者の質感の違いが強調されていて面白い。OZ内はいかにもCGといった硬質な描写で、アクションシーンはたいていここで行われる。一方現実世界は、手描き絵画風の暖かいもの。美しき日本の田舎風景を堪能できる。この監督の特徴である、のっぺりとしたキャラクターたちも、そのほんわかした雰囲気によく合っている。
バーチャル空間にすべてを頼った社会がいかにもろいものか。それが明らかになる前半のスペクタクルでは、歴史という現実に根をはり生きてきた90歳のおばあちゃんが大活躍。ネットやらハイテクに実は飽き飽きしている今時の人々(若者も含む)の気運をつかんだ、上手い見せ場となっている。
少々気になるのは、見ていて恥ずかしくなるような痛い展開、ショットがいくつか見受けられる点。学園のアイドルが頼んでくる「バイト」なんて中学生の妄想そのものだし、ヒロインが泣く場面は毎度ながら見てられない。アニメでこういうシーンをやられると大変むずがゆい。しかしこれも監督の味ということなら、そのまま失わずにいてほしい気もする。
ジョンとヨーコが見守る世界にあの国が悪さをし、主人公が人の死なないゲームで防衛する。『サマーウォーズ』の物語構造は今の時代、なかなかシャレが効いている。
『時をかける少女』のように、熱狂的支持を受ける事にはならないだろうが、なかなかの力作といえるだろう。