『ボルト』85点(100点満点中)
Bolt 2009年8月1日(土)より、全国ロードショー ※一部劇場にてディズニーデジタル3-D上映 2009年/アメリカ/カラー/103分/配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
監督:バイロン・ハワード、クリス・ウィリアムズ 脚本:ダン・フォーゲルマン、クリス・ウィリアムズ 音楽:ジョン・パウエル 声の出演:ジョン・トラヴォルタ スージー・エスマン マーク・ウォルトン マイリー・サイラス (日本語版)佐々木蔵之介 江角マキコ 天野ひろゆき

自分の住む町が撮影所だと知らなかった犬の物語

この次の週には『忠犬ハチ公』の米国リメイクも公開され、さながら日米イヌ対決の様相を呈しているが(いや正確にはどちらもアメリカの犬か)、先攻の『ボルト』は役者犬。しかも、自分が役者だと気づいていない、ある意味幸せな犬が主人公。

白い体に稲妻の模様。美しい犬ボルト(声:ジョン・トラヴォルタ)は今日も飼い主の少女ペニー(声:マイリー・サイラス)を守るため、超能力を駆使して大活躍。しかしボルトが「現実世界」と思っているのはハリウッドの撮影スタジオ。ここで育ったボルトは、自分が本当は「普通の犬」とは夢にも思っていなかった。ところがあるとき、「ペニーを悪の組織にさらわれて」しまった彼は、飼い主の姿を求めスタジオの外に飛び出してしまう。

「自分をスーパードッグだと思っている」「ペニーは外の世界にさらわれて行ってしまった」という、二つの誤解を抱えたまま、ボルトは初めて「現実世界」の旅にでる。その過程で彼はつらい現実を知ることになるが、最後のよすがとする「ペニーとの愛」だけは信じぬこうとする。その姿がなんとも泣ける。

いわばボルトは裸の王様で、彼が暮らす撮影所のロケバスにやってくる動物たちも、すべて知った上で勘違い犬のボルトをからかっている。

観客もボルトの冒険を、ある種の同情とともに見守ることになるが、途中でふと考えることになる。

真実を知った気になっている傲慢な者と、騙されていても真摯に生きている者、まして自らが虚構の中に生きていると知りながらも愛を信じて疑わぬもの、いったいどちらが立派なのか、と。

ボルトの心は、現実世界を生き抜いてきて、途中から冒険に加わる野良猫のミトンズにどんな影響を与えるのか。犬アニメながら、胸を打つ感動に満ちたドラマだ。

この作品は、あのピクサーアニメを作り上げたクリエイターのジョン・ラセターが、親会社ディズニーのスタッフと作った一作目。だから、ピクサーアニメ最大の長所である「キャラクターへのこだわり」がしっかりと受け継がれている。

そのための演出の細かい工夫は、それこそ随所に見られ、毎度ながら感心させられる。たとえばミトンズの耳は千切れかけ、毛並みもぼさぼさだが、それはボルトがこれから生き抜く「現実世界」の厳しさを予感させる。と同時にこの猫の、壮絶な半生をも観客に感じさせる。キャラクターデザインひとつとっても、まるで無駄がない。

この猫にしろ、同じく途中から冒険に加わるとっとこハム太郎にしろ、観客の落涙スポットに彼らはどんどん絡んでくる。個人的にはちょいと脳タリンなハムスター・ライノの、スーパーポジティブな心に泣けた。

なお、冒頭のアクションシークエンスについては、もうこれだけでお腹いっぱいになるほど優れている。スピード感、バックの音楽、緩急のつけ方、どこから見ても文句なし、この場面だけなら迷わず100点。パーフェクトだ。

同時上映の「メーターの東京レース」は、「カーズ」でおなじみサビサビトラックのメーターが、なんと東京を舞台に大アクションを繰り広げる短編アニメ。わざとらしいインチキ東京がたまらない。

この両者をあわせて鑑賞すれば、家族そろってほぼ文句なしの休日の夕べを楽しめるに違いない。少々ラストが甘いという欠点はあるが、それを補って余りあるオープニングアクション、そこに注目してごらん頂きたい。



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