『ハリー・ポッターと謎のプリンス』40点(100点満点中)
Harry Potter and the Half-Blood Prince 2009年7月15日(水)より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー 2009年/イギリス、アメリカ/カラー/154分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:デヴィッド・イェーツ 原作:J・K・ローリング 脚本:スティーヴ・クローヴス 出演:ダニエル・ラドクリフ ルパート・グリント エマ・ワトソン ヘレナ・ボナム=カーター デイビッド・ブラッドリー
一本道のストーリーにゲンナリ
2001年から始まったシリーズもはや6作目。メインキャストらが通しで出ているおかげで、劇中のキャラクターと演じる子役らの成長は完全にシンクロし、観客は彼らを見守るように楽しむことができるようになった。
たとえばハリー役ダニエル・ラドクリフはたくましい若者になり、エマ・ワトソンは胸元が大胆に開いたドレスを着こなすほどに大人っぽくなった。ほかにも植物学を独習し、実家で大麻栽培に成功する成果を挙げた者など、主役脇役ともそれぞれ立派に育った。
だがしかし、彼らを眺めているだけでほんわかできる人以外にとっては、たとえば夢あふれるストーリーをこの作品に求める人にとっては、本作の154分間はなかなかの苦痛となろう。
闇の帝王ヴォルデモートの力の増大により、人間界にも大きな影響が出始めていた。ハリー(ダニエル・ラドクリフ)、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)、ロン(ルパート・グリント)たちが過ごすホグワーツ魔法学校もいまや安全ではなく、危機感を持ったダンブルドア校長(マイケル・ガンボン)は、切り札ともいうべきある人物の元へハリーをつれていく。
前作からシリーズの監督を担当したデヴィッド・イェーツは、ストーリーテリングの能力に難があり、相変わらず一本道の、伏線も起伏も面白みもない物語をダラダラと語っている。
次の完結編を前に、人間界を巻き込む大カタストロフィを予感させる位置づけとなるべき本作においても、冒頭の「ロンドン橋落ちた〜♪」以降は人間界側を描くことをすっかり忘れ、世界観を広げることに失敗している。
この監督が、このまま最終作まで担当するということだから、このシリーズへの個人的な期待度はもはやほとんどゼロに近い。
本作は、先述したとおり154分間も上映時間があるが、お話が進むのは最後の30分程度。そこまでは、世界の終わりが近いことなどまったく感じさせない、ノーテンキでほがらかな子供たちのコンカツを延々と見せられる。
思春期ならではということだろうか、とくにハーマイオニーの色気付き具合が尋常ではない。ロンに嫉妬してツンツンするだけならともかく、大事な人を亡くしたハリーの前でもまだ恋ネタを話すという空気の読めなさぶり。かつての優等生も、ついに色ボケしてしまったのかと心配になる一瞬である。
9割くらいはこんな感じで、質の低いラブコメばかりが続く状況。一切の大技を出さず、淡々とリバース・インディアン・デスロックだけで試合をつないでいる猪木のようなもので、これではさすがに飽きてくる。
いや、別にインディアンデスロックが悪いわけではないが、ものには限度というものがある。観客は映画史上に残る大シリーズを見に来ているのだ。延髄斬りや卍固めの大技を持っているのになぜ使わないのか、と感じるのは当然だろう。
それでも終盤は緊迫してくるし、いいところで終わって「早く次を!」と感じさせてくれるが、いかんせんエンジンのかかりが遅い。これだけの予算と上映時間がありながらこの程度では、到底合格点はあげられまい。