『サンシャイン・クリーニング』85点(100点満点中)
Sunshine Cleaning 2009年7月11日、渋谷シネクイント、TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/92分/配給:ファントム・フィルム
監督:クリスティン・ジェフズ 脚本:メーガン・ホリー 出演:エイミー・アダムス エミリーブラント アラン・アーキン スティーブン・ザーン メアリー・リン・ライスカブ

オレはもうだめだ、と思ったらこれを見よう

今のように景気の悪いときは、映画は比較的安価な娯楽として重宝される。そしてこういう時代において、『サンシャイン・クリーニング』のようなルーザームービー、いわゆる弱者応援歌のような作品は、多くの人々を励ます貴重な存在となるだろう。

かつてチアリーダーとして学園のアイドルだったローズ(エイミー・アダムス)も、いまや30代のシングルマザー。仕事はしょぼくれた家政婦、彼氏は既婚者と、典型的な負け犬人生を送っていた。おまけに妹ノラ(エミリー・ブラント)も、ダメ父親のもとでパラサイトシングルというダメっぷりで、ローズにとっては心配の種。危機感を募らす彼女は、一発逆転を狙い「事件現場のクリーニング業」をノラと二人で開業するが……。

不倫相手の彼氏が警察官で、そこから仕事を回してもらえるのはいいが、どの現場もキョーレツ。相当変わったケースばかりだが、人間の最期と向き合うこの仕事。アメリカ版おくりびと、といえなくもない。

そんなクリーニング業の様子は、ブラックながらコメディタッチで描かれる。姉妹の奮闘振りはなんだかほのぼの。エイミー・アダムス演じる主人公がほがらかで、悲壮感は感じさせない。

映画のために書き下ろした脚本なのでまとまりはいいが、少々鼻につく場面も少なくない。たとえば姉妹がおちぶれた原因について、いかにもそれらしいトラウマ設定があったりするが、そうした「説明」は感情移入したい側にとってはむしろ邪魔。

人々が、ダメ人間になる事に理由など要らない。現在は、どんな人でも最底辺に落ちかねない時代なのだから、とってつけたような理由付けなどせず、単に「ダメだから負け組になった」でよかった。

人は誰しも弱い面を持ち、その弱さを肯定するところにルーザームービーのキモがある。この最重要ポイントをはずしていないだけに、この詰めの甘さは少々惜しかった。

とはいえ、妙に親切な片腕の店員や、決して悪く描かれない浮気相手、どこからみてもかわい過ぎる子供など、こちらを心地よくさせるキャラクターは十分そろっている。

一番涙腺を刺激する場面は、いじめられた子供を、ノラや父親たちが必死に励ますシーン。励ましている側の必死さは、そのまま愛の深さである。しかも皆、そろってダメ人間。人生終了一歩手前の連中ばかりであり、だからこそその言葉は心に届く。

この愛すべき人間たちの心は、しかし決してタフではないはずだ。厳しい現実に打ちのめされながらも、土俵際で目いっぱいの虚勢を張り、彼らはなんとか生きている。世間体などくそ食らえ、ぎりぎりのハッタリをかまし、危なっかしくも生き抜くその姿は、文句なしに肯定すべきものだろう。

アメリカンドリームなどと無縁のラストは、「そうきたか」と感じさせる抜群のバランス感覚。傷つき疲れ果てた人々を大いに力づけてくれる、希望に満ちた良作だ。



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