『群青 愛が沈んだ海の色』30点(100点満点中)
2009年6月27日、有楽町スバル座他全国ロードショー公開 2009年/日本映画/上映時間:1時間59分/カラー/シネマスコープ/DTS STEREO 配給:20世紀フォックス映画
原作:宮木あや子「群青」(小学館 刊) 主題歌:畠山美由紀(リズムゾーン/ロゴ) 監督:中川陽介 出演:長澤まさみ 福士誠治 良知真次 佐々木蔵之介 玉城満

女優、長澤まさみの新境地……?

この映画の原作『群青』は、宮木あや子による恋愛小説。だが、R-18文学賞受賞作家の小説といえど、長澤まさみが主演すれば、立派な清純派ドラマになる。

舞台は沖縄の離島、南風原(はえばる)島。ピアニストの森下由起子(田中美里)と漁師の龍二(佐々木蔵之介)の娘、凉子(長澤まさみ)は、同い年の大介(福士誠治)、一也(良知真次)と兄弟のように育つ。だが、成長した3人の関係は、一人の恋心によって大きくバランスを崩すことに。

あらすじだけならば、幼馴染の三角関係恋愛ごっこ、というありがちな物語だがこの話、とにかく人がよく死ぬ。男たちは皆、愛するオンナのため、海底から宝石サンゴを取ってくるわけだが、これがまた呪いのサンゴかと思うくらいに海難事故を巻き起こす。現地では「女のお守り」として珍重されるというが、なかなかの男殺しである。

当初、長澤まさみについて「濡れ場に挑戦してイメージチェンジをはかる」などと、某夕刊紙らが確信的に飛ばしまくっていたが、ふたを開ければ何のことはない、いつもの沖縄美少女のままである。戦国おてんばお姫様から清純派に復帰という、よくわからない出戻りぶりがさわやかだ。

とはいえ、本作では中盤に精神崩壊したシリアスな演技も見せており、これがまた味わい深い。うつろで焦点の定まらぬ目つきは、もし隣にいたらさすがの私でも逃げだすであろう重度のメンヘラぶりで、かねてからホラー映画の悪役がぴったりといい続けている個人的な評価とも一致する。ルックスが良すぎるために目立たないが、この女優の演技力のポテンシャルはきわめて高い。

他の見所としては、初めて映画撮影を行ったという渡名喜島の美しい海と路地裏風景。これほど絵になる町並みを維持するには、地元の方々のたゆまざる努力があることは間違いない。

ただし、脚本はいかにもダメ日本映画の典型。苦しんだヒロインが立ち直るきっかけのくだりはほとんど冗談のような展開で、島民みんながスピリチュアル江原さんになってしまう。死の悲しみ、苦しみについて、観客任せのチープな演出は、到底深みある文学作品とは呼びようがない。

結論としては、優秀なロケハンの仕事報告としては、ほぼ完璧な映画。1800円以内で本物の渡名喜島に行ける人以外にとっては、多少の存在価値があるといえなくもない。



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