『ジャイブ 海風に吹かれて』60点(100点満点中)
2009年6月6日、シアター・イメージフォーラム・銀座シネパトスほかにて全国順次ロードショー 2008年/カラー/35mm/アメリカンヴィスタ/109分 配給:ダゲレオ出版
監督:サトウトシキ 原作:秀丸 脚本:渡辺千明/松山賢二郎 出演:石黒賢 清水美沙 上原多香子 豊永伸一郎 六平直政

≪オジサン向け冒険映画≫

いかにもオトコが考えたような初恋の人キャラクターを演じる清水美沙が、妙にエロかわいい本作。演じる本人も、監督も、「リアリティより観客受け」をよく理解している事もあり、えらく魅力的なヒロインとなった。ただし、女性にとってどう見えるかは不明だが。

東京でIT企業を経営する泊哲郎(石黒賢)は、久しぶりに北海道江差に帰郷した。東京の暮らしに疲れ果てていたところに、再会した同級生・杉山由紀(清水美沙)の励ましもあり、彼はこのまま地元で少年時代の夢を追いかけることにする。北海道無寄港一周というその目標を、漁師となったかつての友人たちと共に、着々と準備していく。

オヤジのための冒険啓蒙映画であると同時に、ちょっぴり社会派なテーマも含んでいる。それは、主人公の「真の目的」にかかわる事だが、北方領土問題と向き合うそのクライマックスは、この手の小規模な作品にしては迫力がある。

海洋アクション、というにはいささか地味だが、海を舞台にした見所をきちんと作り出したあたりは評価できる。ただ、最後に叫ぶ台詞は「漁師」でなく「オレたち」の方が適切であろう。

夏の北海道でロケをした映像の数々は、海山問わずさすがに雄大。ただし、金があったらここは撮りなおしたはずだわなぁ、というカットも混じっているあたり、苦しい台所事情が伺える。

冒頭に書いた清水美沙関連のシーンは、目立たないが良く出来ている。露出は少ないが、入浴やら濡れ場の臨場感は相当なもので、さすがはピンク四天王と称されるサトウトシキ監督である。とくに車の上で彼女が主人公に吐く台詞の生々しさには、男のこだわりを感じさせる。女子高生好きに転職したこの私をさえ、再び熟女ファンに戻しかねない、相当な手腕である。

それとはまったく無関係な話だが、北方領土"等"問題に関して、この映画から人々が受けるであろう感情は大切なものだ。対ロシアというよりは、国内における足の引っ張り合いで解決が長引いているような現状には、いち国民として呆れる限り。2島だの3.5島だの色々出ているが、そもそも4島だけのお話ですかね、と思ってしまう。そのほうがロシアは喜ぶであろうが……。

ともあれ、大作話題作にはない、オヤジのツボを押さえた珍しい一品として『ジャイブ 海風に吹かれて』は珍しい存在。見て損はない。



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