『ハゲタカ』70点(100点満点中)
2009年6月6日(土)全国東宝系ロードショー 2009年/シネスコ/ドルビーデジタル/134分 配給:東宝
監督:大友啓史 脚本:林宏司 原作:真山仁 出演:大森南朋 玉山鉄二 栗山千明 柴田恭兵
NHK発、愛国経済ドラマ
最近NHKは、看板番組NHKスペシャル「JAPANデビュー」において、内容が反日偏向しているとの批判にさらされている。視聴者からの苦情が、なんと数千件も寄せられているそうだ。インタビューされた台湾人が、「話の主旨を正反対に捻じ曲げられる編集をされた」と怒っているのだから、制作者としても逃げ場がない。放送局設立以来のピンチである。
ところが、彼らがかつて放映したテレビドラマの映画化『ハゲタカ』は、むしろ中国政府の方から苦情がきそうな反共的内容。映画がどんな思想の元に作られていてもかまわないと私は思っているが、今回ばかりは時期が時期だけに、面白く見させていただいた。
かつて数々の企業買収劇の主役として、ハゲタカの異名をとった鷲津政彦(大森南朋)。彼の元に、現在は大手自動車会社の役員である盟友・芝野(柴田恭兵)がたずねてくる。その話によると、日本を代表するこのメーカーが、中共の息がかかった新興ファンドから敵対的買収をかけられており、鷲津になんとか救ってほしいというのだ。
毒をもって毒を制す。買収の奥の手を知り尽くしたハゲタカが、日本経済の象徴というべきモノづくり企業の最後の砦となる。シンプルだが、いくつものテーマを内包する興味深いストーリーだ。むろん、その防衛過程では様々なディテール、トリビアを味わえる。素人でも楽しめる経済ドラマとしては、十分合格点といえるだろう。
ハゲタカこと鷲津と対決するのは、残留日本人孤児三世の
観客はこの架空の企業に、当然あてはめるべき企業名を脳内で補完しているから、この流れはとてもスリリングだ。
ただし、このあたりが日本のテレビ映画の限界か、脚本は相当に荒っぽく、リアリティという面ではかなりの不満が残る。
とくに、劉一華の真意をあのようにするなら、もう一段二段の伏線が必要であったろう。生き馬の目を抜く中国の経済社会で、最底辺からのしあがった男があんなに簡単に……なはずはない。同時に中国政府のエリートたちが、これほど甘い見立てをするはずもないだろう。
とはいえ、一応格差社会における労働者の悲哀や、マスコミを抑える大企業、といったテーマにもバランスよく触れており、短い時間でよく頑張ったな、という印象だ。主人公がドバイの大金持ちの王子に会いに行くシーンなどは、適度に緊迫感も出ていて映画的迫力もある。
全体的にユーモアが少なく、ちょいとマジメすぎるような気もするが、経済に興味がある人(ただしセミプロ未満)には十分楽しめるであろう出来。金融危機を受け、急遽脚本を書き直しただけあって、内容も古臭い感じはしない。保守愛国ブームに合わせ、中国を悪役に仕立てたセンスも間違ってはいまい。
こうした作品が受け、次々と本格社会派エンタテイメントが誕生するようになれば、いよいよ日本の映画界も楽しくなってくるのだが。