『スター・トレック』85点(100点満点中)
Star Trek 2009年5月29日(土) 丸の内ルーブルほか全国<拡大>ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/126分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督・製作:J.J.エイブラムス 脚本:アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー 出演:クリス・パイン ザッカリー・クイント ゾーイ・サルダナ サイモン・ペッグ エリック・バナ ウィノナ・ライダー

数ある映画版の中でも屈指の傑作

オバマ大統領の登場を機に、ハリウッド映画はネクラからネアカへと変化している。米国民のニーズがそうなっている、あるいは業界がそうした流行を作ろうとしているため、明るい企画が通りやすくなっているわけだが、中でも『スター・トレック』最新作はその典型例というべきエンタテイメント作品だ。

英雄的な艦長を父に持つ若者カーク(クリス・パイン)は、進むべき道が決まらぬまま、無軌道な青春時代を送っていた。だが、新型艦USSエンタープライズのキャプテン直々の誘いにより、父と同じ惑星連邦艦隊に志願。熱い性格のカークとは正反対に冷静沈着なスポック(ザカリー・クイント)と反発しあいながらも、メキメキ頭角を現していく。

66年に始まった初代シリーズ『宇宙大作戦』からおなじみのメンバーの、若き日々を描くSF青春ドラマ。その出会いから、いかにして堅い絆で結ばれていくかをテンポよく追いかける。冒頭に書いたとおり、グダグダと悩む姿ではなく、若者らしくストレートに突っ走る前向きな雰囲気が特長だ。

冒頭は、カークの父親率いるUSSケルヴィン(エンタープライズ号より旧型なので、より軍艦ぽいデザインになっている)の壮絶な艦隊戦闘。この場面の「熱さ」といったらない。CG効果の優秀さを見せるのではなく、見ている側が「燃える」シークエンスの組み立て。

スタートレックのような大宇宙を舞台にしたSFに、男たちが求めてやまない要素(しかし最近はとんと見られなくなった)がここにある。ぜひ、ご自身の目と耳で味わっていただきたい。

登場人物が議論しながら作戦を遂行するシリーズの魅力もバッチリ。初心者でも混乱しない程度にSF的専門用語が飛び交う様子は、とても小気味よい。演じる若い役者たちの演技力も上々、大いに「キャラクターの魅力」を味わえる。また、だからこそ彼らが命がけで戦うアクションが「熱い」ものになっている。

ストーリーは、J・J・エイブラムス監督自ら「パラレルワールドだよ」と語るとおり、過去作品の束縛を受けぬよう、巧妙に紡がれている。ようは「これからはこの設定で、ボクチンのすき放題に新生スタートレックシリーズを作らせていただきます。どうぞ、続編にもご家族総出でお越しください」ということだ。

さすがは『クローバーフィールド/HAKAISHA』を大ヒットさせた監督。映画作りもうまけりゃ商売もうまい。ただ、今回の傑作ぶりを見るに、その構想の実現は待ち遠しい限り。

本作の成功は、監督自身がそれほど熱心なファンでない代わりに、脚本チームに俗に言うトレッキー(熱烈なマニア)を採用し、徹底的に過去のシリーズをリサーチさせた点にあろう。そうしたやり方で、設定に致命的なミスが生じないよう気をつけた上で、あまりマニアックにしすぎぬよう、この「ビギニングストーリー」を組み立てた。

結果的には、ファンを納得させられるクォリティを保ったまま、監督のバランス感覚により「初心者でも楽しめる」作品になった。

『スター・トレック』は、シリーズファンのみならず、宇宙を舞台にした娯楽映画を見たい人すべてにすすめられる。圧倒的な迫力の戦闘シーンに熱い男の友情ドラマ。ほかの国じゃ絶対に作れない、堂々たる横綱相撲というべき一本である。



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