『重力ピエロ』75点(100点満点中)
2009年5月23日(土)より、シネカノン有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー 2009年/日本/カラー/119分/配給:アスミック・エース
監督:森淳一 原作:伊坂幸太郎 企画・脚本:相沢友子 主題歌:S.R.S「Sometimes」(TOY'S FACTORY)出演:加瀬亮 岡田将生 小日向文世 吉高由里子

泣けないが、感動的な物語

映画界では伊坂幸太郎が大ブームで、こぞって実写化されている。それにしてもこの4ヶ月だけで3本もの長編が公開されるというのは、尋常ならざるペースである。この『重力ピエロ』の原作も、直木賞候補となった人気作だが、今回は読まずに鑑賞した。読書仲間の音楽家(乙一嫌いのアラフォー 独身)がこの作家を絶賛するものだから、個人的にはどうも食指が動かない(私は乙一を高く評価しているので)。

遺伝子研究をしている大学院生の兄、泉水(いずみ)(加瀬亮)は、弟の春(岡田将生)から奇妙な話を聞く。春は街の落書き消しを仕事にしていたが、その現場と最近続いている連続放火事件のそれが、すべて共通しているというのだ。やがて別の法則性や暗号じみた符合を発見した彼らは、徐々に事件の真相に迫っていく。

よくできた物語であり映画だが、精神的にはかなりキツい。「泣けないが、感動的な話」「もっとも思い入れのある作品」と作者が語るとおり、大いに心揺さぶられる良質なドラマだが、単純なお涙頂戴ではまったくない。相当変わった家族の、しかし普通のそれ以上に固い絆が描かれる人間模様といったところ。

ミステリ的なトリック、犯人さがしも、冒頭から気軽な遊び要素のごとく配置され、興味を引く。だが、それはあくまでサブ、味付けに過ぎない。それほど難しいものではないし、犯行の動機や不可能性から推理すればすぐに見当がつく性質のものだ。だが、それで物足りないということにはなるまい。十分楽しませてくれる。

一瞬でも冷静になってしまうと、なんで犯人はこんなややこしい事をやるのか、そういう面倒な計画を遂行している間に、普通は思いが冷めてしまうだろうよ、などとろくでもない事を考えてしまうので要注意。そんなことに気づいても、一円の得にもならない。

本作のように、意外な人物の闇、過去が明らかになり驚かされるパターンの場合は、謎解きに至る前にいかに共感を得るかが勝負。そのあたりは、誰とはいえないがなかなか上手な役作りをしている役者のおかげで、適切に処理されている。

原作にほれ込み、すぐに映画化の話を持ち込んだ脚本家による、力の入った仕事により、原作未読者でも楽しめるレベルの実写化。"未読者でも"なのか、"未読者ならば"、なのかが重要なのだが、いまのところその判断は皆様にお任せするとしよう。

重力ピエロ (新潮文庫)
原作。映画の評判はあまりよくないみたい。
ラッシュライフ (新潮文庫)
6月にはこちらも公開に。映画より先に読みたい人はどうぞ。


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