『天使と悪魔』75点(100点満点中)
Angels & Demons 2009年5月15日(金)全世界同時公開 2009年/アメリカ/カラー/140分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原作:ダン・ブラウン『天使と悪魔』(角川書店刊) 監督:ロン・ハワード 音楽:ハンス・ジマー 出演:トム・ハンクス、ユアン・マクレガー、アイェレット・ゾラー、ステラン・スカルスガルド
宗教知識ゼロでも楽しめる
前作『ダ・ヴィンチ・コード』(06年、米)が世界中で一番ウケたのは、何を隠そうこの日本。シリーズの売り物である陰謀論にしても、ローマやヴァチカンの謎めいた秘儀にしても、あるいはその背景となる美しい観光名所の数々も、日本人が大好きなものばかり、ということか。
この続編『天使と悪魔』にもそうした要素はふんだんにつめこまれている。おまけに初心者大歓迎のわかりやすさも兼ね備えているから、かなりの支持をえることになりそうだ。
教皇逝去にともない、新教皇を選ぶ儀式コンクラーヴェが開始された。だが、それを妨害するかのごとく、有力候補の枢機卿4名が誘拐、殺害予告される。外部に漏れる前の解決を願うヴァチカン当局は、立場上対立してはいたが、もっとも博識の宗教象徴学者ロバート・ラングドン(トム・ハンクス)を呼び寄せ、事件捜査の助言を求めるのだった。
前回、原作内容を高速展開で全部なぞった暴走演出に落胆した私は、今回はあえて小説版を読まずに見ることにした。するとどうだろう、何の予習もしていないのに、これだけ宗教的な儀式、専門用語に満ちた内容がスラスラとわかる。いかに監督や脚本家が上手に物語を整理整頓したか、想像がつくというものだ。
美しい風景を楽しみながら、世界の裏側をのぞき見た気分になれる、これぞまさにバーチャル宗教ツアー的ムービーだ。
主人公のラングドン教授は、本日深夜のタイムリミットまでに、4人の枢機卿を救い出さねばならない。様々なシンボルからヒントを得て、一人一人追いかけていけば全員救えることがわかった彼は、次なる教会のヒントをスタート地点から探し、走り回ることになる。
ようは、歴史的宗教施設でオリエンテーリングをやるという、映画化するには最適な物語フォーマットというわけだ。ただし、前作の内容がカトリック側の反発を招き、後に全面対決したという事情により、ロケ地の確保には相当苦労したと聞く。だが実際には、そんなことはまるで感じさせない、すばらしい映像美を堪能できる。
カメラはせわしなく動き回り、トム・ハンクスが秘密結社だとかあっちだ!とか叫びながら、バチカン、ローマを駆け回る。一歩間違えばバカ映画だが、重厚な画面作りのおかげでそこまでは落ちていない。
ブリオーニのシックなジャケットを着たこの主人公に、「いい服着てるね」などと声をかける、スポンサー納得の心憎いシーンもあったりして微笑ましい。
前作よりはるかに面白くなった『天使と悪魔』は、日本でも再び大ヒットするに違いない。科学信仰への批判もチラと出てきたりするが、そんな事を気にせずとも、誰もが楽しめるエンタテイメントに仕上がっている。