『GOEMON』60点(100点満点中)
GOEMON 2009年5月1日、丸の内ピカデリー1他 全国ロードショー 2008年/日本/カラー/128分/配給:松竹、ワーナー・ブラザース映画
監督・プロデューサー・脚本・原案・撮影監督・編集:紀里谷和明、プロデューサー:一瀬隆重 出演:江口洋介、大沢たかお、広末涼子、ゴリ/ガレッジセール、要潤、玉山鉄二

チェホンマンとキャシャーンが大暴れする時代劇

各方面に衝撃を与えた『CASSHERN』(04年、日)一作で、紀里谷和明監督が娯楽映画作りのコツを学んでしまったのだとしたら、ある意味日本映画界は貴重な才能を失ったことになるのかもしれない。

本能寺の変を経て、秀吉が天下統一したつかの間の平和。そこでは庶民の人気を集める義賊、石川五右衛門(江口洋介)が活躍していた。あるとき彼は、盗んだ品物の中に奇妙な箱を見つけるが、値打ちなしと判断し捨ててしまう。ところが舎弟格の猿飛佐助(ゴリ)からの情報で、それが重要なものと知り、彼らは再度探しに出かける。

なんと『GOEMON』は驚くべきことに、普通に面白い。監督独特のビジュアルセンスはそのままに、退屈しらずのアクション時代劇として成立している。しかも、キャシャーン並のトンデモな魅力まで兼ね備えているのだから文句なしだ。前作を批判した私としても、これは認めざるを得ない。

主人公が戦いながら、唐突に反戦テーマを語りだす紀里谷演出も絶好調。せんそうはんたいの地球市民・ゴエモンは、みんなの幸せのため、こなみじんになるまで戦うというわけだ。

対する秀吉は朝鮮侵略を狙う好戦的キチガ、いやアグレッシブな政治家という、一部外国人が喜びそうな人物造形。本作は海外公開が予定されているから、きっと多くのアジア市民に喜ばれることになるだろう。

その一方で、韓国の英雄、K1戦士のチェ・ホンマンに、豊臣家を命がけで守る役柄を与えるなど、心憎い皮肉も忘れない。ここは監督一流のブラックジョークとほめるべきである。

アクションシーンは、これが実写映画だったことを忘れるほどのクォリティで、五右衛門などはひとっとびで200mは跳躍。キャシャーン並みの超人的能力を誇る。さらにバットマンのようなワイヤーをも装備。その脚力なら要らないだろうというのは、無粋なツッコミである。

この、座頭市の5万倍くらい強い男が、スターウォーズの帝国軍のような大軍と渡り合う場面が最大の見所。スーパーマリオのように飛び跳ねながら、テックランサーや重機関銃で大アクションを繰り広げる。誰もがこれが時代劇だったことを忘れる、至福の瞬間である。

監督は「30億円あればどんな映像でも作ってやる」との言葉を残しているが、あながちハッタリではなさそうだ。きっと紀里谷監督にかかれば、原始時代を舞台にした映画だって、ミサイルや戦闘機が飛び交うエンタテイメントにしてくれるだろう。

よほどの金持ちで、独裁的で、妄想を大爆裂させられる人間でなければ、こんな映画は作れない。ただ残念なのは、キャシャーン時の批判を研究したか、ある種のまとまりの良さが見受けられる点。次回はもう少し、トンデモ方面に舵を切って、さらなる飛びっぷりを見せてほしいと思う。



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