『食客』20点(100点満点中)
Le Grand Chef 2009年4月25日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー他全国順次公開予定 2007年韓国/35mm/カラー/ビスタサイズ/115分 配給:彩プロ
監督:チョン・ユンス 脚本:シン・ドンイク、チョン・ユンス 撮影:パク・ヒジュ 出演:キム・ガンウ、イム・ウォニ、イ・ハナ、チョン・ウンピョ

日韓の食文化の決定的な違いがよくわかる

『食客』は、ここ数年公開された韓国映画の中では突出して面白い。だが、「映画を見て感動したい」とか「心に染み入る傑作をみたい」とか「幸せな気分になりたい」とか「映画作りの妙に感心したい」といった、99パーセントくらいの人が期待するものはこの映画の中にはまったくないので、その点は注意が必要である。

韓国最高の料理人として、朝鮮王朝由来の名誉ある包丁の継承者を決めるコンテストが開催される事に。そこでテレビ局員のキム(イ・ハナ)は、いまは料理界から身を引いているが圧倒的な実力を持つ若き料理人、ソン(キム・ガンウ)を出場させようと彼の住む田舎に向かう。

何が面白いかって、こんなにも韓国らしい作品はない。あっても、日本で公開されることはほとんどない。あちらでは、大学の図書館でも大人気のマンガが原作とあって大ヒットしたが、日本でこんな内容の料理マンガがあったら、ヒットの前に笑いものにされるのがオチだろう。

まず、主人公らが奪い合う伝説の包丁というのが凄い。なんと、悪辣な侵略者たる旧日本軍に料理を作るのを拒否するため、自らの手首を切り落とした料理人のものだというのだ。それを栄光あるものとして奪い合う、グロテスクかつ民族的説得力のある設定が、のっけから笑いを誘う。

半島最強の料理人を決めるコンテストの内容がまた味わい深い。「どちらが上手に牛を解体できるか」とか、お題が妙にグロ、いやダイナミックである。ただ、普通は牛の解体を料理コンテストとはいわない。

そもそも料理などといっても、肉を焼くだけだったりするので、ほとんど競うものがない。まさか韓国料理すべてが、そんなに単純なはずないだろうとは思うものの、この映画ではそう見える。

そもそも、出てくる料理がことごとくマズそうだ。料理映画としては到底考えられぬ完成度であるから、これはきっと観客の食欲をわざとなくすことで、飽食の時代を否定しようという大仰な目的が隠されているに違いない。撮影監督も、死体のような色合いで画面作りをすることで、そのコンセプトに全面協力する。

いずれにせよ、数々の料理作品で目が肥えた日本人観客にとっては、想像もできないようなレベルの作品であると、ここに証言する。

多少マジメな批評をするならば、本作には「職人的なもの」がまったくない。食に対する深い造詣もなければ、食文化の担い手として、代々技術を磨き、伝えてきた人々に対する敬意も感じられない。この映画の作り手にだけそれがないのか、韓国自体にそうした意識が薄いのか、その分析は専門家に譲りたい。

料理をする人物の手元がチラっと写ったかと思うと、次のショットはもう完成品。仕上がっていく過程におけるトリビア、料理のコツ、そして愛情などは描かれない。作り手もあちらの観客もそんなものには興味がないということか。ただこれは非難ではない。韓国ではそうなんだ、と素直に驚かせてもらっただけの話。

最後のスープ対決くらいはまぁ、料理対決といえなくもない。ここで負けた側の火病っぷりがまた笑いを呼ぶ。そんな大げさな演技指導でいいのか?

やがて話題の(というより韓国側が話題づくりしようとしたが不発に終わった)反日的描写とやらが、不自由な日本語を操る日本人役の俳優の演技とともに流れ、猛烈な違和感とともにフィナーレとなる。

今の時代、マジメに売ろうとしても韓流映画はさっぱりだ。ならば、これからの配給会社はこうしたトンデモ、いやオモシロ作品を片っ端から買い集め、積極的にお笑い映画として売り出すべきではないだろうか。中途半端な不治の病ラブコメなんかより話題になるだろうし、お隣の国の本音だってしっかりと伝わる。真の日韓友好のためにも、そのほうがずっといい。



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