『バーン・アフター・リーディング』30点(100点満点中)
Burn After Reading 2009年4月24日(金)より、スカラ座ほか全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/ビスタ/DTS、ドルビーデジタル、SDDS/96分/PG-12
提供・日活 配給:ギャガ・コミュニケーションズ×日活 Powered by ヒューマックスシネマ
監督/脚本/製作:ジョエル・コーエン & イーサン・コーエン 出演:ジョージ・クルーニー、フランシス・マクドーマンド、ブラッド・ピット、ジョン・マルコヴィッチ、ティルダ・スウィントン
"コーエン兄弟らしい"とのほめ言葉は、いわば"マンネリ"と紙一重
万人受け、という言葉とは正反対のコメディーを作る名手コーエン兄弟が、CIAをおちょくった『バーン・アフター・リーディング』は、オールスターキャスト目当てで見に行くと、確実に地雷原となる気難しい一品である。
CIAをクビになったアル中の幹部職員(ジョン・マルコヴィッチ)は、腹いせに暴露本の執筆を開始する。ところがその草稿入りのCD-ROMを落としてしまい、やがてマヌけなスポーツジム・インストラクターのチャド(ブラッド・ピット)の手に渡る。ディスクの中身を勝手に国家機密と勘違いしたチャドは、同僚のリンダ(フランシス・マクドーマンド)にそそのかされ、落とし主を脅して金を得ようとするのだが……。
酔っ払いが怒りに任せて書いた、何の価値もない原稿を、あらゆる連中が勘違いしてあれやこれやして、事態がろくでもない方向に転がっていくストーリー。構成のうまさはさすがコーエン兄弟だが、筋書き自体はまったく面白いものではないし、またそれを楽しむための作品でもない。
ちりばめられたギャグの数々も、きわめてブラックかつ「わかる人にのみ、わかればいい」ゆるゆる系。超有名&演技力抜群のオスカー組が、よその監督作じゃありえないお馬鹿キャラを演じている点に価値を見出せる人のみ劇場にいらっしゃい、というコンセプト。
こうしたひねくれっぷりは、この監督においてはごく普通の事柄であるから、その点を理解しない一般の方は、素直にスルーしておいたほうがよいと考える。
では、コーエンファンならいいかといえば、それも意見の分かれるところだろう。私にとっては、こいつをマニアックなコーエン作品のひとつとしてみても、何の意外性も成長も見受けられなかった。
『バーン・アフター・リーディング』は、もし無名俳優が演じていたら、あるいはコーエンブランドでなければ、おそらく存在価値すら疑われるレベル。この監督は、昔から似たようなものを、(本作に比べたら)はるかに知名度の低いキャストで、もっともっと面白おかしく作っていたではないか。いまさらそんな、コーティングだけ豪華なチョコレートのような作品を見せられてもどうか、という気がする。