『パニッシャー:ウォー・ゾーン』70点(100点満点中)
PUNISHER:WAR ZONE 2009年4月18日(土)より全国順次ロードショー 2008年/アメリカ/103分/R-15/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:レクシー・アレクサンダー スタント・コーディネーター:パット・E・ジョンソン 出演:レイ・スティーヴンソン、ドミニク・ウェスト
妙に政治的なアメコミ映画
『パニッシャー:ウォー・ゾーン』を見ると、本当に今のアメリカ映画界ってのは、ヒーロー映画の一本も素直に作れないんだなぁと思わされる。正義の味方というものが、この国においてさえ、いかに白々しい存在になってしまったか。つくづく時代の流れを思わせる。
家族を殺され、復讐の鬼と化したフランク(レイ・スティーヴンソン)。彼はやがて、法で裁けぬ悪を処刑してまわる完全武装のアンチヒーロー"パニッシャー"となった。だが、ある犯罪組織に突入したとき、知らぬこととはいえFBIのおとり捜査官を殺してしまう。それ以来、フランクは葛藤し、"仕事"が出来なくなってしまう。
マーベルコミックの人気ヒーロー"パニッシャー"は、すでに何度か映画化されている。本作は、もともと04年版の続編となる予定だったが、紆余曲折を経て結局独立した作品となった。フランクを演じる役者も変更となった。
脚本が何度も改変を経たから、というわけでもないだろうが、作品のあちこちにアメリカ(あるいはイスラエルも?)の自虐的批判要素が見て取れる、政治映画的な作品となった。終盤の直接的な徴兵パロディはもとより、誤射によって悩むパニッシャーの姿じたい、彼らの軍隊そのものを表しているかのようだ。
喜び勇んで復讐の殺戮劇に身を投じたはいいものの、参戦の建前を揺るがす誤射騒動で意気消沈。世間の風当たりも強くなってきたし、ここらで私刑ごっこからは撤退するか……。現実はイマココ、てな具合である。
映画はその後、いったいどういう展開を見せるのか。それはまるで未来を予測しているようで興味深い。最後に女がパニッシャーに告げる言葉は、現実のアメリカの人々が、何より言ってほしい言葉だろう。そんな風に思いながら見ていると、効果音と動きのズレや、わざとらしいCG火炎など、細部のつくりの荒さも許容できる。
ルックス的な面白さという面では、やたらと生々しい人体破損シーンの数々がまずあげられる。残酷なものが苦手な人は要注意だ。
また、銃器の贅沢すぎる使用法もある種の見所か。駅前のスーパーで銃弾の残り物半額セールでもやっていたか、無駄玉おかまいなしであたりかまわずぶちまけるパニッシャー。そんな戦い方は、現実ではまずしないだろうから、派手なガンアクションが好きな人にはいいストレス解消になろう。
『パニッシャー:ウォー・ゾーン』は、そんなわけで政治に関心がある、ちょっとひねくれた米国民向け。だから日本ではあまり売れないだろう。週末、単純にスカッとしたいとか、そういう目的にはあまり適していない。
だが、時代を映す鏡として、ユニークな観測対象であることだけは事実だ。