『ある公爵夫人の生涯』75点(100点満点中)
THE DUCHESS 009年4月11日(土) 渋谷Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ、新宿テアトルタイムズスクエア他全国ロードショー 2008年/アメリカ、イタリア、フランス/カラー/110分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督・脚本:ソウル・ディブ 出演:キーラ・ナイトレイ、レイフ・ファインズ、シャーロット・ランブリング

衣装と美しい建築に価値を見出せる人に

人間社会に生きるものに、完全な自由などない。誰もが大なり小なり宿命を背負っている。だからこそ、人一倍重いそれを背負う人々を尊敬する気持ちが生まれる。

たとえ無意識であろうと、それは自然な感情である。日本人が皇室を敬うのも、貴族がヨーロッパ社会である種の尊敬を受けているのも、その思いが根底にある。彼らが生まれ持った宿命は、深く、重い。

この映画は、その事をわかりやすくわれわれの前に提示してくれる貴重な一本である。

18世紀後半の英国。スペンサー家の美しい令嬢ジョージアナ(キーラ・ナイトレイ)は、名門貴族デヴォンジャー公爵(レイフ・ファインズ)と結婚、たちまち社交界の話題を独占する。だが、夫は世継ぎを得ることばかり気にして、彼女を一人の女として愛そうとしない。表向きだけは順調な結婚生活の中、孤独なジョージアナはやがてエリザベス(ヘイリー・アトウェル)という心の友を得る。しかし、女好きの夫は彼女にまで眼をつける……。

浮気ばかりする貴族の男、というとえらくいいかげんな感じがするが、ここに出てくるデヴォンジャー公爵のケースを含め、物事はそう簡単ではない。

彼のような立場の男が浮気ばかりするのは、貧乳のキーラさんより巨乳の熟女が好きだからではもちろんなく、「血の生存競争に勝たねばならない」貴族としての宿命の苛烈なストレスにさらされているから。先祖代々の栄えある歴史を自分が途絶えさせてしまうかもしれないという、絶対に逃がれられないプレッシャーは、さぞ恐ろしいものだろう。

つくづく、そんな立場にない自分の幸運を喜ぶとともに、彼のような人々を気の毒に思う。そういう事に気づかない人は、人権だの身分差別だのといった言葉でこうした制度を罵るが、浅はかなことである。

ちなみに『ある公爵夫人の生涯』の物語が、ダイアナ妃の悲劇をダブらせているのは明らかで、作り手も見る側も、(とくに英国人ならば)暗黙の了解としてそれを念頭においている。じっさい、血筋を見ればダイアナはスペンサー家の末裔である。

だから、悲劇でありながら決して絶望的ではない本作の鑑賞後感、いってしまえばその好印象は、当然の帰結といえる。つまり、欧州の人々は今もジョージアナ=ダイアナを愛しているんだな、という事がこれを見るとよくわかる。

主演のキーラ・ナイトレイはコスチュームプレイが大好きな女優で、今回の豪華絢爛な衣装の着こなしもダントツに手馴れていたと聞く。

アカデミー賞の衣装デザイン賞受賞もうなづける、すばらしいドレスの数々。その背景となるのは、世界最高の英国建築美。それらを味わうだけでも、1800円分の価値はあるだろう。

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