『レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―』75点(100点満点中)
2009年4月10日(金)日劇1・日劇3にて全国超拡大ロードショー
2009年/日本/カラー/144分/
配給:東宝東和、エイベックスエンタテインメント
監督:ジョン・ウー、主題歌:alan「久遠の河」(avex trax) 出演:トニー・レオン、金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ
これからの洋画配給は本作の成功を参考にすることになるだろう
普通、パート2というのは一作目を見てからみるものだが、『レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―』にその必要はない。本作は、あらゆる観客にとって、かゆいところに手が届く親切設計となっている。
たとえ前作をみてなくとも、何ら問題はない。「話題になってるから、よく知んないけどいってみるか〜」という人や、「三国志なんて興味ないけど、彼氏が無理やり見るっていうからぁ」てな女の子でもOK。そこには、決して取りこぼしはしないという配給サイドのしたたかな意思が感じられる。
80万もの曹操軍に対し劉備・孫権連合軍は5万。圧倒的な兵力差と、曹操(チャン・フォンイー)の卑劣な疫病作戦を前に、さすがの劉備(ユウ・ヨン)も怖気づいたか撤退を言い出してしまう。だが、軍師・孔明(金城武)と指揮官・周瑜(トニー・レオン)とその部下たちに迷いはない。かくして三国志最大のバトル、赤壁の戦いが始まった。
映画が始まる前には、たっぷり時間をかけた前作のおさらい映像が流れる。それは日本語で、かつCGを使ったわかりやすいもので、日本公開版のみのサービスである。
前作は昨年11月に公開されたばかりだし、早くもDVDまで出ているが、忙しい現代人はそんなもの見ている暇はない。見た人にしても、どうせ5ヶ月前の映画の内容なんぞとっくに忘れている。毎日の仕事や合コンの方が大事なのだから当然だ。……というわけか。
おまけに各キャラクターが出るたび、その名前がフリガナつきで字幕に出る。フォントも一般的で読みやすい。挙句の果てには、今カメラがどちらの軍勢を写しているのかまで字幕に表示される。
まさに、これぞゆとり時代の字幕映画。ここまでやるなら、次は俳優の経歴やゴシップ記事も一緒に表示したらいい。
とはいえ、本シリーズが今の洋画不況を打開する勢いなのも事実。製作にかかわったエイベックスやその周辺は、若者の洋画離れの原因を彼らなりにリサーチして、レッドクリフシリーズを売り出したのだろう。
オールドファンにはさびしいが、時代とともに洋画のあり方も変わる。昔ながらの方法に胡坐をかいていては、いつかユーザーにそっぽを向かれる。レッドクリフの大ヒットを見るに、彼らのビジネス手法から学ぶところは大きいと私は考える。
この後編は、感情移入プロセスがあの長い前編で済んでいることもあって、最初から大いに盛り上がる。勇壮な音楽も気分を高めてくれる。
そして、映画オリジナルのキャラクターがなぜ登場したか、ジョン・ウー監督の狙いも明らかになる。彼らは、原作だけでは足りない映画的ダイナミズム、平たく言えばお涙ちょうだい要員として配置されていたわけだ。たとえばヴィッキー・チャオと間抜けな兵士のやりとりは、どうみても馬鹿馬鹿しいエピソードなのになぜか泣ける。この"熱さ"こそ、この監督の持ち味だからだ。
知り合いのディレクターは、「(軍拡真っ只中の)中国映画のくせに反戦テーマを叫んでて白々しい」と語っていて、なるほどそうだよなぁと思ったりもするが、大スペクタクルとして、単純に楽しんで帰ってくるには十分すぎる出来。週末の気軽な娯楽にピッタリだ。