『ザ・バンク 堕ちた巨像』85点(100点満点中)
THE INTERNATIONAL 2009年4月4日(土)より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー 2009年/アメリカ映画/スコープサイズ/全7巻/3,231m/SDDS・ドルビーデジタル・ドルビーSR/上映時間:1時間57分/字幕翻訳:松浦美奈/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督・音楽・トム・ティクヴァ 脚本:エリック・ウォーレン・シンガー 出演:クライヴ・オーウェン、ナオミ・ワッツ、アーミン・ミューラー=スタール

本格映像で楽しむ銃撃戦

自称「100年に一度」の金融危機とやらで、世界中のお金持ちがヒーヒーいってる今日この頃。そこで、このたび「金融の裏側」を描いた、タイムリーな映画が公開されることになった。

……とはいえ、じつのところ本作は「100年の一度の金融危機」とはほとんど関係がなく、タイムリーでもなんでもない。そう宣伝したほうがウケるだろうという大人の事情で、邦題もそれらしくつけているだけの事。

本当は「1991年のBCCI破綻に着想を得た、アクションサスペンス」と説明するのが正しい。ただ、そう言われても、ほとんどの日本人はピンとこないだろう。

インターポール捜査官のルイ・サリンジャー(クライヴ・オーウェン)は、ニューヨーク検事局のエレノア・ホイットマン(ナオミ・ワッツ)と共に、国際銀行IBBCの不正行為の捜査を進めていた。だが、決定的な証人を目前で消され、上層部への圧力もかけられる。彼らが追う国際金融の闇は、どこまで深いのだろうか。

モデルとなった国際商業信用銀行(BCCI)とは、91年に経営破綻した途上国向けのメガバンク。あらゆる紛争に積極的に介入していき、CIAやらイスラム原理主義者など、怪しげな連中と裏で手を結ぶことで成長した。ようは世界中のワルたちのための、便利でニコニコ24時間営業ATMというわけだ。

映画の中でも、現実と同じく銀行本部はルクセンブルグに存在する。

このルクセンブルグという国は、人口50万人足らずのちっぽけな国のくせに、国民1人当りのGDPなど、経済的豊かさの指標では世界トップクラス、ある意味日本以上の経済大国である。

基本的には金融立国であり、ゴルゴ13ご愛用のスイス銀行と同じく、顧客のプライバシーを守る、超富裕層向きプライベートバンクも複数存在する。同時にそれは、膨大な利益を生む黒いカネが世界中から集まるという意味でもある。『ザ・バンク 堕ちた巨像』は、この特殊な国が主な舞台となる珍しい作品といえる。

とはいえ、鑑賞のために複雑な金融知識などは不要。

最初に言ったとおり、これは単純明快なアクションサスペンスであり、無理に社会派ものと解釈する必要はない。実のところ、最初はもっと地味なノンフィクション風だったらしいが、観客ウケ重視のためアクションエンタテイメント寄りに再調整された。だから、ここは気軽に楽しんだらいい。

で、実際面白いかどうかといえば、これは抜群に面白い。本格的、重厚な画面づくりに過度な説明を排した大人っぽい演出。とくに、白亜の美術館内部に銃弾の跡がバシバシ開いていく銃撃戦は、近年まれに見る出来栄えだ。

主人公が逮捕権のないインターポール捜査官と検事局の女の子ということで、思うように動けぬあたりがもどかしい。その上、敵は国家権力とも結ぶ、死の商人ともいうべき黒いメガバンク。チワワのくぅ〜ちゃんも青ざめる、サラ金のチャンピオンみたいなもんだから、そのえげつなさは想像を絶する。

イタリアの兵器会社の社長がさらりと言ってのける、彼らの真の目的も、なるほど説得力がある。

主人公の最終決断は、もっと過激なものにしといたほうが良かったと思うが、全体的な満足度は相当高い一本。オススメだ。



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