『ワルキューレ』65点(100点満点中)
Valkyrie 2009年3月20日(金・祝)より、日劇3他全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/120分/配給:東宝東和
監督:ブライアン・シンガー 脚本:クリストファー・マッカリー、ネイサン・アレクサンダー 出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、テレンス・スタンプ

トム・クルーズのおかげでわかりやすくなった

ナチス関連の映画は、日本人にはわかりにくいと言われる。ドイツではハーケンクロイツを提示しただけでも違法とされ、今でもこの手の映画撮影は困難をきわめる。

本作の撮影隊、およびユダヤ人監督ブライアン・シンガーも、このジャンルの経験があるだけあり、ドイツロケでは慎重にコトを運んだが、それでも訴訟沙汰に巻き込まれた(撮影地を提供した地主が、鉤十字マークの提示の件で訴えられた)。

純粋な愛国心から、ヒトラーの暴走に反発していたシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)は、軍内部のレジスタンス組織に深く関わるようになる。やがて彼は、他の仲間とともに総統暗殺計画「ワルキューレ作戦」の根回しに取り掛かる。

40回以上も刺客に狙われてきたヒトラーの警備は、このころすでに厳重をきわめ、軍関係者以外は近づくことさえ困難であった。だからこそ、意表をついた内部からの反乱計画は効果があった。『ワルキューレ』は、その有名な史実の映画化である。ナチの将校ながら、ヒトラー打倒に立ち上がった主人公シュタウフェンベルク大佐は、今でも英雄視されている。

ところでトム・クルーズという役者は太陽みたいなもので、登場するとその明るさでまわり全てをかすませてしまう。美人女優がいようが、演技派がいようが関係ない。どんな映画も「出演者:トム・クルーズとそれ以外」になってしまう。

ワルキューレ作戦も、大勢の優秀な軍幹部が関わった大作戦のはずだが、映画を見ているとなんだか彼一人でぜんぶやっちまったような印象である。アクション満点、スリル満点。この映画のタイトルが「MI:4」とかだったりしても、たぶん誰も気づかないであろう。

ブライアン・シンガー監督による重厚な画面構成や、当事を再現した大規模なセットなど、史実に忠実に伝えようとする意思は感じられる。が、そういう意味ではトムさん一人にぶち壊しにされている。

とはいえ、それは彼の責任ではなかろう。太陽に向かって「暑いから温度を下げろ」といっても、それは無理だ。

だいたい、本作での彼の演技はじつに良いのだ。頼もしく、正義感にあふれ、頼りがいがある英雄らしさを、この上なく表現している。おかげで暗殺計画が進行してゆくサスペンスも、結果をたとえ知っていたとしても十二分に味わえる。

映画の製作意図の中に、この史実をドイツ人、ユダヤ人以外に広く知って欲しいというものがあるならば、彼の起用は大成功だったといえる。

この手の映画の中では突出したとっつきやすさと、お勉強をしたような気分になれる知的な雰囲気。その両方を兼ね備えている。満足感はそこそこ得られるはずだ。



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