『釣りキチ三平』30点(100点満点中)
2009年3月20日(祝)より、全国ロードショー 2009年/日本/カラー/118分/配給:東映
監督:滝田洋二郎 原作:矢口高雄 脚本:古沢良太 出演:須賀健太、塚本高史、香椎由宇、渡瀬恒彦

水面から下がCGアニメのハーフ実写化?!

傑作人間ドラマ『おくりびと』で、見事アカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督の最新作は、なんと『釣りキチ三平』実写版であった。授賞式の日程と公開日の関係で偶然そうなったわけだが、こうなってくると滝田監督は運が良いんだか悪いんだかさっぱりわからない。

和竿作りの名人である一平(渡瀬恒彦)と暮らす、釣り大好き少年三平(須賀健太)は、ある日アメリカで活躍するバスフィッシングのプロ鮎川魚紳(塚本高史)と出会う。ところがそこへ口うるさい姉(香椎由宇)が帰郷。激しい言い争いの結果、伝説の魚“夜泣谷の巨大魚”を釣り上げなければ、釣りをやめる約束をさせられてしまう。

公開中の「ヤッターマン」が、三池監督らしい突き放した毒気をまぶして大成功を収めているのに比べ、こちらは同じ人気漫画の実写版としていかにも線が細い。

だいたい滝田監督は子役メインの映画では、持ち味が発揮できないタイプだ。根が優しい性格なのか、笑いもストーリーもはじけられず、生真面目にすぎる。

この『釣りキチ三平』も、職人らしい堅実な絵作りと筋運びはさすがだが、原作にも出演者にも遠慮がちというか、どうにもおとなし過ぎる。低学年の子供が、授業中に教室でみる分にはいいかもしれないが、大人にとっては退屈だ。もっとガムシャラにやっていい題材なのだが。

それに加えて、釣りシーンでなんと「魚」をCGで表現するという無謀、いや意欲的なチャレンジ。その無残な出来栄えには、いまごろオスカー像も泣いているに違いない。対象(魚)にピントを合わせすぎなので、動きをいくらリアルにしてもまったく本物には見えない。

クライマックスのマンガ的な対決にいたっては、見ているだけで恥ずかしさがこみあげ、背筋がこそばゆくなる貴重な体験を得ることができるだろう。

周辺の関係者によれば、『おくりびと』の勢いに乗ってこれもカンヌに持っていくつもりだという。何かの間違いでパルムドール(最高賞)にでもなったら、それはそれで笑える話ではあるが。



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