『ダイアナの選択』80点(100点満点中)
The Life Before Her Eyes 2009年3月14日(土)より、シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/90分/配給:デスペラード、日活
監督:ヴァディム・パールマン 脚本:エミール・スターン 音楽:ジェームズ・ホーナー 出演:ユマ・サーマン、エヴァン・レイチェル・ウッド、エヴァ・アムーリ

公式サイトを読む前に見に行って

犯人の名前を知ってから推理小説を読むのが好きな人は、『ダイアナの選択』の公式サイトを読むとよい。

高校時代、校内で銃乱射事件に遭遇した経験をもつダイアナ(ユマ・サーマン)の、深い心の傷はいまだ癒えない。あのとき彼女は親友のモーリーン(エヴァ・アムリ)と女子トイレに追い詰められ、犯人にこう問われたのだった。「お前たち二人のうち一人を殺す。どっちを殺すかお前たちが決めろ。さあ、どっちだダイアナ?」

少女時代に自らが発した一言が、親友の運命と自分の人生を変えてしまった。たとえいま、愛娘や優しい夫と、なに不自由ない暮らしをしているように見えても、決して消えることのないトラウマをダイアナは抱えている。

さて、映画の情報を得るとき、公式サイトを利用する人は少なくないだろう。だが、私はあまりオススメしない。あれはときに、とんでもない間違いをしでかす。

『ダイアナの選択』の場合もまさにそれで、結末のどんでん返しが最大の売りである本作において最悪ともいうべき、ネタバレにつながる記述が書いてある。これは、図書館で推理小説を借りたら、赤字で真犯人に丸がしてあった、というようなイタズラに出くわすくらい致命的だ。

冒頭で読めといったのはもちろん皮肉であるから、間違ってもこの作品に限っては公式サイト(および公式資料を疑いもなく丸写しした各種紹介記事)を読んではならない。

一方、作品の内容についてだが、とても丁寧に作ってあるからドラマとしては十分見ごたえがある。とくに、現実に何度もおきた同種の事件、悲劇を想像させる校内銃乱射事件の様子は、見ているこちらもトラウマになりそうな身に迫る描写。女子高生二人がトイレでたわいもない会話をしているとき、背後で鳴り響く乾いた銃声。その恐怖たるや尋常ではない。

このキツい回想シーンのあとは、ユマ・サーマン演じる大人時代のダイアナのパートになるが、高校時代の様子も頻繁に挿入される。幸せなはずの今の暮らしの中で、主人公はそれこそ目に入った何気ないものや出来事から、一瞬にしてあの日の悪夢に立ち返ってしまう。高校時代の楽しい思い出の数々は、しかしその最後にはかならず「あの日」につながるのだ。あらゆる思い出に傷つけられる、こんなに悲惨な人生はあるまい。

彼女があのときとった行動について、観客は深い同情を感じると共に、「でも、はたしてあれが最善だったのかな」と考え始める。そんなとき画面に「良心の痛み」との文字が思わせぶりに浮かび上がる。これが本作のテーマなのか。

さて、私が紹介するのはここまで。ここから先は、誰にとっても予想外の展開が待ち受けている。クライマックスでは、怒とうのどんでん返しと伏線の回収ぶりに心酔していただきたい。

それにしても「良心の痛み」がテーマだとしたら、これはきわめて優秀なラストである。ダイアナが、あの日の選択によって悩まされ続けた胸の痛み、苦しみが大きいほど、この結末は未来に救いをもたらす。多くの人が、「凄い映画だった」と感心し、同時に感動して帰路に着くだろう。あくまで、公式サイトを読んでいない人限定だが。

春に葬られた光 (ヴィレッジブックス)
原作。読んでないけど、映画を超えられるのかな?
砂と霧の家 特別版 [DVD]
同じ監督。これもなかなか。


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