『マダガスカル2』95点(100点満点中)
Madagascar: Escape 2 Africa 2009年3月14日(土)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/89分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督:エリック・ダーネル、トム・マクグラス 音楽: ハンス・ジマー 声の出演: ベン・スティラー、クリス・ロック、デヴィッド・シュワイマー、サシャ・バロン・コーエン
アメリカ人のしぶとさを感じさせるアニメーション作品
ベン・スティラーやクリス・ロック、そしてジェイダ・ピンケット=スミス母子(ウィル・スミスとの娘ウィロウ・スミス)など、豪華な声優陣をそろえた話題性で引っ張り、米市場で『マダガスカル2』は記録的なヒットとなった。ところがじっさい見てみると、これが単に宣伝や話題性だけで売れたのではないことがはっきりとわかる。『マダガスカル2』は、前作はもちろん、近年のアニメーション作品の中でも群を抜く傑作である。
ライオンのアレックス(声:ベン・スティラー/玉木宏)ら、NY動物園の元人気者4頭は、飛行機を修理してマダガスカル島から脱出を図った。ところがしょせん機長はペンギン。米大陸まで届くはずもなく、機体はアフリカ本土へ不時着してしまう。
巨大な火山の遠景から、ライオンの父子の手元へとカメラが下りてくる。遠くから近くへ。深い深い奥行きを感じさせるカメラワークで、のっけから「これは!」と思わせる。そこから、物凄いスピードで前作のおさらいをした後、さっさと本編に入る。前作未見者も、半ば強引に物語に引き込む、アメリカ映画らしい親切丁寧なオープニングだ。
巨大な飛行機のエンジン音に劇場が揺るぐ序盤のアクションシーンなど、どう見ても動物アニメとは思えない迫力の見せ場がそれに続く。ライオンをこてんぱんにのしてしまう、めっぽう強いバァさんなど、コメディ色も豊かだ。だいたい、米国版の声優には名だたるコメディアンをそろえてあるから、会話のやりとりも退屈知らずの面白さ。古典映画からの引用も多いから、往年の映画ファンも楽しめる。
さりげなくツインタワーが描かれたNYの風景は、なんとも切なさを感じさせるが、後半に入ると物語じたいが何やら社会派じみてくる。
ハリウッド脚本家組合よろしくストを行うサルたちの姿は意味深だし、動物に車を奪われた観光ニューヨーカーたちが、現地で環境破壊をやらかして大迷惑をかける姿はなおそうだ。9.11事件で車ならぬ命を奪われたニューヨーク市民発の世論が、全世界に大迷惑をかける報復戦争につながった事は、いまやアメリカ人にとっても共通認識になろうとしている。
本作に出てくる好戦的なニューヨーカーたちが、武器をとったあと最後にどうするか。オバマ大統領がチェンジと叫ぶ時代の映画として、きわめて示唆に富んだ展開を見せるこの場面。大人の観客は必見である。
また、本作最大の見所は、キリンのメルマンがカバのグロリアに告白するところ。そのあまりのロマンチックさに、観客の多くが涙を流す事間違いなし(字幕版限定かもしれないが……)。あんなバカ面したキリンをドアップにして、これだけの感動を呼び起こすのだから、本作のスタッフは相当な手練れである。この告白シーンは、思い出す限りの最近のラブロマンスの中でも、ダントツのナンバーワンであると断言する。
主人公アレックス、そして親友のシマウマのマーティは、それぞれ自己の存在を問う試練にさらされる。
動物アニメの姿を借りて、自信を失った大国アメリカの復活を謳いあげる『マダガスカル2』。これぞ、今の時代の空気とかの国の決意、そして底力を見せ付けるタイムリーな作品。文句なしのオススメだ。